【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『髪の奇病』


 江戸の何某の婦人は、髪の長さが九尺余りあった。

 毎月三、四尺も切ったが、すぐに三、四尺ほど伸びた。

 今は髪を剃り落として尼になっている。


 また、昔ひとりの婦人がいて、髪を結んでも一晩でばらばらになった。

 夜その髪の様子を見ると、寝ている間に髪が自分で解けて揺れ動いている。

 ある医者が婦人の治療をした。


 まず夜が更け、髪が揺れ動くのを確認すると、その髪を手に取り短刀で根本から切り取り、そのまま熱湯の中に投げ込んだ。

 と、直ぐに血に変わってしまった。

 その後、この患いはなくなったという。


 また、薩州桜島の農夫が、首筋に宿瘤ができた。

 医生の土橋氏がこの宿瘤を削り取ってみると、中には細毛の塊があった。

 塊を解いてみると、牛の毛のようなものの、長さ一寸ばかりのものが絡みあっていた。

 『中陵漫録』 佐藤成裕 より