【怪しいおやぢ】です。

 範疇に困る話……『江戸奇譚』

 今回は、『髪瘤』


 天明八年(1788年)の春、日向国中村の医生福嶋道琢から書状が来て、その中に書いていたのは、去年中村の周辺で髪瘤をふたり治療したということだった。


 ひとりは、脇腹に出たもので、二年ほどしてから傷口が破れ、膿汁に混じって毛髪五、六本ほど毎回出て、しばらくして快癒したという。


 もうひとりは左頬に出て、十数年に渡って少しずつ大きくなり、小茶碗をうつむけにしたほどまでになったので治療した。

 道琢が、【ランセイタ】で瘤の上を割ると、豚の脂肪のようなものが追々出て、その中に混じって髪の毛二百本ほどが出たといって、現物を京都に送ってきた。

『黄華堂医話』橘南谿(たちばな・なんけい)より
【ランセイタ】 ランセットとも。手術用の諸刃のメス。