猫は妖獣とも言うし、かわいがるものでもないが、この宇宙に生を受けるものであり、仏神が禁じるということを、疑わしく思っていたが、仏神が禁じていないことが明らかなので、ここに記しておく。
 日光東照宮普請のおり、三年ほど関わったとき、東照宮の荘厳さは、世に言うとおり、結構この上ない。実に、日本の名工が巧みを尽くしたものである。
 というわけで、和漢の鳥獣の彫り物で無いものはない。
 その支配が言うには、
「数万の彫り物の中に、猫ばかり見えないのは妖獣のせいで禁じていると仰るが、ある日、東照宮を見回ると、奥の院入り口の門脇、蛙股内の彫り物は、猫でしたが、猫を禁じるという妄言の疑いは晴れましたな」
 ということである。
  【耳嚢(みみぶくろ)】根岸鎮衛著・三章企画編訳