この所,私はほぼ毎週,『週刊文春』を購読し続けています。

私が・・・というより,家族が見たく,「読みたいから,買ってこい」という要請に応じて購入しているのですが・・・。

ちなみに,今は経費削減のために,新聞は未購読状態で,時事的な話題はネットテレビを媒体としています。


さて,今日21日に発売された『週刊文春 1月28日号 』を購入し,目次を開いたところ,

中高齢者を主たる読者層とし,政治色が強く,少々お堅め(?)の,文春らしからぬ記事が掲載されていました。

それは,ジャーナリストの萩原絹代氏がレポートした・・・ 


 「国立大」「早慶」進学率でわかった 「私立中学本当の実力校はここだ」 

  ~54校進学実績リスト付き~


と書かれているタイトルの記事です(p.40-43)。



週刊誌でも『週刊朝日』『サンデー毎日』などの新聞社系週刊誌では,毎年のように「人気」やら「話題」やらと称する

私立中学・高校についてのお受験に関するネタを,高度経済成長期の頃から,頻繁に提供しています。

毎年2~3月頃には,学校別の『東大(京大)合格者数特集』などを,頻繁に集計していますね・・・。


こういったネタは,よほど大衆受けが良いのでしょうか,様々な所属高校の合格大学延べ人数やら,

卒業生に対する合格者数の割合やら,医学部・歯学部・薬学部への進学が強い大学やらの数値を集計し,

ランキング付けすることを好むようです。

「受験戦争」を各メディアが競って否定していた,1970~80年代には,立派な商売として確立したものだから,大したものです。


それ以外にも,様々な指標を用いた各私立学校のランキング付けを行っているようです。

「本当にお得な私立中学・高校」などのタイトルをつけて)

取材などを通してデータを収集しながら集計した作業そのものはご苦労さん・・・ですが,全く以て,ナンセンスな指標としか言えません。


卒業生などの一部のOBやOGたちは,母校の行く行く末に一喜一憂するかもしれません。

また,これから「お受験」をひかえている(主に私立の)中学・高校を受験する児童・生徒やその保護者には,

これたの記事やデータをもとに,ご子息さんの志望校を選ぶ際の指標とするのかもしれません。


それを一概に「悪い」と決めつけるつもりはありません。

しかし,少なからず,私学の綺麗事では済まされない世界を知っている身からすれば,

これらの週刊誌記事やデータを真に受けて,家庭教育の場に持ち込んでもらいたくないものです

(もちろん,今の保護者の方々の多くは,賢く納得されて選択をされているとは思いますが・・・)

ただ,上記した長年お受験データを記載している新聞社系週刊誌ならともかく,

『週刊文春』で,このようなお受験ネタに言及するのは,とても珍しいことです。

このようなレポートを『週刊文春』までもが便乗して掲載していることに,少なからず失望を覚えます

出版業界の不況がこんな所でも響き,なりふり構わず対象を広げているのでしょうか・・・


ちなみに,記事の本文内容については,比較的興味深く,頷ける部分も数多くありました。たとえば・・・


「高い金をかけてまでも私立に行かせる意味はあるのか・・・」,

「私立のカリキュラムは一部優秀な子にだけ通用し,消化不良になってしまい,問題があるのでは・・・」



私学の中高一貫校での勤務を複数校で経験した身としては,上のような主張には一理あるものです。

多くの生徒やその保護者が希望している(と思われる)「良い大学に進学」するために,

「わざわざ高い入学金や学費などを投じて」私学に学校を選んでいるのでしょう。

少なくとも,私学への進学を第一志望としているご家族からすれば・・・。


しかし,万人に受け入れれられる学校教育システムがあるか・・・と言われれば,実際には,そんなものはありません

子どもにも一人一人,先天的であれ,後天的であれ,所属する学校のスタイルに対して「向き・不向き」があります。

私学の中高一貫校でのカリキュラムについて行けなくなり,最悪の場合は退学に追い込まれる場合もあるのです。


また,中学・高校の頃というのは,中学入学時に比べ,勉学面だけでなく,

情操面や,己の精神的にもおいても葛藤や矛盾などが芽生え始め,中々親が想像して描いたようには育たないものです

(かつての私自身もそうであったように・・・)

同じ学校集団でも,生徒一人一人により気質も性格も異なるがゆえに,勉学的にも情操的にも「成長」が実現できるのでしょう。


個々人に対する教育において,学校で行えるものは,かなり限られているのが現状です。

勉学面から情操面,生活面に至るまで,全て学校教育が面倒を見きれるものではありません。

(少なくとも,今の日本の学校教育制度では・・・)


とはいえ,週刊文春』の本文で,「私学に行ったからといって上級学校への進学は保障できない」

「コストパフォーマンスとして良い選択なのか?」といった問題提起を行ったことは,個人的は良い事だと思います。

地元の学区内にある公立学校が,学力面だけでなく,校内風紀で荒れているがゆえに,

より(保護者の子にとって)良い教育環境を求めて,私学を選ぶ者も居ることでしょう。

しかし,実際には,私学でもイジメや校内暴力,盗難などの犯罪行為スレスレの事件が発生している話も,数多く聞きます。

(私自身も,私学で担任業務に立ち会った時に,盗難の多発が相次ぎ,対策に奔走された経験があります)


究極のところ,国立・公立・私立を問わず,どこに行こうが,「安全地帯」など無いのです。


私自身,高校は私学で育ち,私学の中高で教員生活の大部分を奉職して,生計を立てている身としては,

複雑な思いもあり,立場上,言ってはならない不謹慎な主張なのしれませんが・・・。

ただ,相当荒れていた,田舎の公立中学で過ごした私の経験から言えば,公立での生活も決して捨てたものではありません

その点を(進学面だけですが)指摘した『週刊文春』の本文記事は,「私学万能主義」に疑問を呈するものとして価値あるものです。



ただ,問題だったのは,その参考の際に作成・使用し,掲載した資料。

つまり・・・「54校」からなる国立・公立・私立の進学実績リストである,「進学率ランキング」の表についてです。


この表の作成そのものが,非常に恣意的なバイアスがかかっています。

推移を見るための統計的優位性を持つ社会調査とは言い難いものです。

具体的には・・・



1.進学実績を東大・京大・東工大・一橋大・国立大医学部・早稲田大・慶應義塾大に

  現役合格して進学した生徒のみの割合(対現役卒業生)で出していること。


    ※このランキングの上位には,女子校ばかりが際だち,男子校がきわめて少ないことがわかります。

     特に,俗に東京都内の「女子御三家」と言われる3つの学校の全てが入っています。

     しかし,腑に落ちないところがあります。

     最も受験者数の多かった団塊ジュニアが受験した時ですら,一部最難関レベルの大学を除き,

     女子集団の多くは,受かった大学で妥協して入学する傾向にあり,現役指向が強かったものです。

     一方,男子は「仮面浪人」をしてでも,より「上位」と言われる大学を目指していたものです。

     上記の学校の現役進学実績率が良いことは,皆さんも充分に納得できるでしょう。

     女子が男子と比較して総数では現役進学指向が強いと言われ,これは昔から変わっていません。

     今でも,難関男子校では東大や京大を目指して,敢えて合格した私立大を蹴って,

     浪人生活を行っている受験生が少なからず居ます。

     そういった各学校の進路的な事情を一切省いて,ランキングとして講評すること自体,

     実態に即していないのではないでしょうか。



2.正確な進学者数が非公表の場合には,リストに入れていない。


  ※今回は(やはりというか),開成や麻布などの男子中高一貫校については,上の事を理由にリストに入っていません。

   たとえば,東京で俗に「男子御三家・新御三家」と呼ばれる6つの学校のうち,ランキングに加えられているのは,

   昔から進学実績のみを公表している武蔵中学・高等学校だけです。あと,それに準じた桐朋中学・高等学校くらいでしょう。

   (上記二つの学校は,受験指導による大学合格実績より,その先の長い目での教育実践を重視しているようです)


この他にも,東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県にある学校のみを対象とした,首都圏ローカルのみに通用するネタだということも,

調査上は大きな問題ですが,これは首都圏で特に私学へのお受験熱が高まっているがあるがゆえに,仕方ないことなのでしょう。   


    

結局,この『週刊文春』が提示したランキングは,あくまで進学先の数を公表した学校のデータのみを判断し

この調査に初めから非協力的だった学校の存在(しかもそちらの方が多数派)を無視して,作られたものです。

このランキング表が,学校別の比較対象としては,ほとんど無意味な表であることがわかるでしょう


そして,学校関係者の中では,見たひとにはわかるかと思いますが,ここのリストの下半分に挙げられている私学には,

私学情報掲示板 内で指摘されている「ブラック校」(この名称をあまり使いたくないのですが・・・)で,

毎度お馴染みとなっている学校が満載なのです。

こういった学校では,「進学実績」という学力到達を図る一指標を,他の何よりも最優先し,

その数値ばかりを追求していくことが「学校の価値」だとする(いこうとしている)教育方針をとる傾向にあります。

ほぼ例外なく,こういった学校では,教員の労働環境が過酷であるばかりでなく,生徒の心身もかなり疲弊しています。

幸いにも,第一志望ではないにせよ,大学に入学できたとしても,大学入学後の事など,このような学校では関心もありません。

大学入学後に目標を失って,無気力になってしまったという話も聞きます。

(実際,私もこのランキング内に入っている学校に,複数校関わったことがあります)



何だか,ランキングリストの下半分に位置する学校を際だたせていくことを通して,

学校の宣伝・営業活動をすすめていくためのプロパガンダではないか・・・とも思ってしました。


そもそも,新聞などのマスコミよりも出典が曖昧で,信憑性に乏しい『週刊誌』の記事のネタに対して,

公正な判断を求めること自体,無理な相談なのかもしれません。