もしも劇場で観ていたら、僕はどうなっていたでしょう。打ちのめされて、スタッフロールはもちろん、明るくなってもシートから立ち上がれなかったかもしれません。

 

「9 Lives」

 

 ロドリゴ・ガルシア監督。2005年アメリカの作品。「美しい人」という邦題が付けられています。NHK-FM「きらクラ!」に寄せられたリスナーさんからのお便りで紹介された映画なのですが、その文面から漂う香りにいい予感がしてみたら、これがまさしくど真ん中ストライク。本当に紹介してくれてありがとう、という気持ちでいっぱいになりました。

 

 9篇のショート・ストーリーからなるオムニバス作品で、どれも女性の心情に焦点を当てています。九つの人生。ショート・ストーリーではありますが、決してひとつひとつが軽いものではなく、一本の映画に匹敵するほどの重みを感じるのは、その10分前後のやりとりに、人生という大きなものを感じるからでしょう。長い人生から切り取った、9つの10分間は、女性たちの心の機微にグッと迫り、心を揺さぶられずにはいられません。

 

 ここまで引き込まれるのは、どのストーリーもワンカットで描かれているからでしょう。カットが変わらない。つまり、10分で10分を描写している。これが簡単なようで、なかなかできない。もちろん、作品のジャンルや方向性にもよりますが、ワンカットで見せるというのは、それなりの覚悟と意味が必要です。この映画は、ワンカットであることが信じられないくらい自然に流れていくので、もしかすると言われないと気がつかないかもしれません。

 

 人生から切り取られた10分間は、タイトルにあるとおり、9つのLIVES。9つの人生、いのち。それは、9つの愛の形でもあります。人の数だけ、愛の形がある。

 

 これほど重みのある骨太な作品にはなかなか出会えるものではありません。BGMもほとんど使用していないのも素晴らしい。あぁ本当に素晴らしい。この作品に出会えたことも素晴らしい。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いといいますが、話題になる映画が素晴らしければ、番組も素晴らしい、ということです。

 

 爆音上映、応援上映、映画の楽しみかたは様々ですが、僕はどうしてもドラマの延長だったり、感動を押し付けるタイプは苦手で、やはり、こういう作品に出会えると、とても安心します。観客を信用している。泣けるかどうかとか、そんな次元で語られるべき作品でもありません。星の数で評価すべき作品ではないのです。

 

 感動していることに慣れてしまい、なかなかあの頃のように感動できなくなっていると嘆いていた矢先、感動が訪れました。この作品をいいと思えるのは、もしかすると年齢も関係しているでしょうが、おそらく20代の僕も好きになっていたと思います。こういう、振り切った映画を求めていたから。  

 

 もっと前に知っていたかったけれど、いまでよかったのでしょう。必然的な出会い。映画も音楽も、出会い。この映画に出会える人生でよかったと思います。

 

*似たタイトルの作品があるので、借りる際はご注意ください。