今年も案の定、いや例年以上に汗をかいたかもしれません。新たな会場、新たな試み。楽曲制作もプロモーションもぎりぎりまでやっていました。余裕なんて、あったらあったで制作時間に充てられてしまうから、きっと生まれることはないのでしょう。無心になれる、情熱を注げるものがあることは幸せなこととはいえ、無理をしすぎるといつか倒れてしまうのではないかという危惧さえありました。でも、やりたいことをやれない不健全さより、やりたいことをやりすぎる不健全さ。気力こそ衰えは感じませんが、体力は昔と違います。いかに体力づくりが大切かを実感する夏でもありました。

 

 普段の仕事をこなしながら「ロケフェス」の準備を進める日々に、頭の中は暴発寸前。そんな、不安定な生活を支えてくれていたものは、数えあげればきりがありません。窓から望む空の色。アイスコーヒーの氷の音。でも、もっとも支えてくれたものがあります。

 

 この夏を支えたもの。それはまぎれもなく、ボサ・ノヴァ。やはり、この存在が一番大きいでしょう。寝起きの朝。お風呂にはいりながら。やわらかなギターの調べ。ボサ・ノヴァが流れると、心も体もリラックスするのです。硬くなった頭のなかがほぐされてゆく時間。心の起伏をなだらかにするモデレート機能。ボサ・ノヴァのおかげで僕は、夏を満喫し、夏を乗り越えることができました。

 

 トリスチ。三月の雨。WAVE。好きな曲は数多ありますが、たくさんのアレンジ曲を楽しめるのもボサ・ノヴァの特徴。同タイトルにいろいろなバージョンがあるので、ダウンロードするのも大変ですが、お惣菜屋さんでおかずを選ぶように、今日はどれにしようかなとパソコンで選んでいるひとときもかなりのチルアウト・タイムになります。

 

 ボサ・ノヴァは本当に心地よい。ブラジルの波の音。前にもお話ししましたが、コードに対するメロディーの距離感。風にようにさらっとしていて、まさしく海辺にいるかのよう。窓から差し込む光。コーヒー。窓越しの空。ボサ・ノヴァの音が流れるだけで、からだが心地よい空気に包まれます。

 

 リオ・オリンピックもあり、いままで以上にブラジル色の強い夏でしたが、リオで汗を流すアスリートにも負けないほど、ブラジルの風を毎日のように浴びていました。リア・ドウさんとイパネマの娘ができたことも、香港の歌姫と、日本のDJがイパネマの海岸で出会った、夏の思い出。

 

 そしてまた、ボサ・ノバのない生活がはじまります。まったく聴かなくなるわけではありませんが、季節の移ろいとともに日々のプレイリストも変わるもの。これからしばらく、アンビエントの世界に浸ることになります。

 

 夏を支える音は、人生を支える音。ボサノヴァが、人生を支えていることはいうまでもありません。毎年心地よい風を届けてくれるボサ・ノヴァのおかげで僕は、ずっと、夏が好きでいられるのです。