生放送が終わると、いつも一緒に昼食をとっていました。テレビが斜め上に置いてある定食屋さん、路地裏のお蕎麦屋さんやラーメン屋さん。いくつかのお店をローテーションしているような。食後はたいていゴルフの打ちっぱなし。そこに行けば、「よぉ!」と、ゴルフ仲間がいて、立ち話をしています。さっきまで全国に向けて司会をしていた人が、いつのまにか普通のおじさんになっている。いまから10年以上前のことです。そんな、いつものコースのあと、いつもとは違うコースにはいったことがありました。


「今日は、ふかわの家に寄ろう」


そのときは冗談だと思っていました。しかし、マンションの前に車が停まると、降りたのは僕だけではありませんでした。そして、車だけが切り離されていきます。


「いいとこ住んでんなぁ…」


マンションの5階。ほかの住人に気付かれてしまわないか心配しながらエレベーターを降り、扉を開けました。


「お、ピアノあるのか…」


しわしわの指が、鍵盤の上で踊り始めました。往年の「だれでも弾けるチック・コリア」をやってくれました。僕しかいないというのに。ふたりで連弾もしました。


「ちょっと仮眠するな…」


しばらくすると、ベッドの上で仰向けになっていました。サングラスをしたままだったのか、はずしていたのかはもう覚えていません。全部でどれくらいの時間だったのでしょう。そのあとどのようにして帰られたのかもわかりません。ただ、率先してボケを連発していました。僕しかいないというのに、アルタと変わらない、タモさんでした。


「いらっしゃいませ~!」


経営なさっているというお店をこっそり訪ねたことがありました。もしいたらびっくりするかもしれないし、いなかったらいなかったでいいので。店の扉が開くと、威勢のいい声が飛んできます。活気のあるお店。ビールサーバーでジョッキにビールを注いでいるスタッフがいました。


「あ…」


その人こそまさに、タモさんでした。経営というより、バイト店員といった感じです。


「なんだよ、言ってくれりゃぁよかったのに…」


その言葉はほかのタイミングでも耳にしたことがあります。お見舞いを口実に、勝手にご自宅を訪ねたときです。炬燵にはいっていたので、冬だったでしょうか。猫と遊んでいると、カレーライスがでてきました。そのあと、音楽鑑賞ルームのような部屋でジャズを聴き、リビングでテレビを見ていたら、うとうとして、僕はそのまま眠ってしまいました。



タモリチルドレンはたくさんいて、尊敬している人も山ほどいることはいうまでもありません。なかでも僕はかなりのできの悪い子供で、最後の日にも行けなかったけれど、間違いなくタモさんに影響され、タモさんの背中を見てきた人間。アルタでも、路地裏でも。


「毎日やってるんだから、一生懸命やっちゃだめ。反省しちゃだめ」


残り一か月をきったある日。画面から聞こえてきた言葉は、まるで僕に向けられた言葉のように感じました。あの番組が日常の風景になったのは、タモリさんがいつも自然体だったからでしょう。規模も時間帯も異なりますが、タモリチルドレンとして僕も、夕方の風景になりたいと思います。