こんにちは。不動産法務コンサルタントの中沢です。
「契約は守られなければならない」
という記事
を以前書きました。
ひとたび契約書にサインをしたら、勝手に契約を破棄することはできず、契約書に定められた義務(債務)を履行しなければならないというのが原則ということです。
ところが、相手方が必ずしも契約書どおりにやってくれるとは限りません。
相手方が義務を履行しないのに、こちら側だけが義務を履行しなければならないというのは不公平ですよね。
そこで民法で定められているのが「同時履行の抗弁権」です。
これは、相手方が義務を履行しない場合においては、こちら側が義務を履行しなくても契約違反(債務不履行)にならないというものです。
不動産売買のケースであれば、売主が物件の引渡しや登記をしないのであれば、買主が代金を支払わなくても契約違反を問われないということになります。
(逆に買主が代金を支払わない限り、売主は物件の引渡や登記を拒むことができます。)
ところで、ファンドが関わる取引等では「ポスクロ」という言葉が出てくることがあります。
「ポスクロ」とは、Post Closing Item、すなわち「クロージング(決済)後に行うべきこと」という意味です。
本来であれば、決済当日までに売主・買主がお互いの義務をすべて履行し、取引を完了させることが望ましいわけですが、一部の義務については後日対応するということで合意する、これが「ポスクロ」です。
一般企業・個人間の取引でも、一部の義務をポスクロとすることは勿論可能です。
たとえば、隣地との境界確認が一部未了となっていて、その分の境界確認書の交付が後日になってしまうことを了承するような場合等がこれに該当します。
しかし、ポスクロというのは、言ってみれば同時履行の抗弁権を放棄するということに他ならないわけですから、慎重な対応が必要です。
相手方に対してポスクロ対応を認めるのであれば、相手方が履行しない、あるいは履行できないという状況も想定しておかなければなりません。
上記の例でいえば、境界確認書の交付ができなかった場合、契約を解除するのか、あるいは違約金・損害賠償とするのか、といったことを定めておく必要があります。
とはいえ、代金支払い後に違約金等を請求しても、売主に資力がなければ回収できません。
(売買代金は抵当権者への弁済に充てられ、売主の手元に殆ど残らないことも少なくありません。)
そのため、ポスクロ事項が完了するまでは代金の一部を留保しておき、万一ポスクロ事項が完了しなかった場合には、留保していた金額を違約金・損害賠償に充当するという対応もありえると思います。