『エンコサイヨウ』短編・Evermore | あるひのきりはらさん。

『エンコサイヨウ』短編・Evermore

ねぇ知ってる……?

ボイスドラマでユカ役をお願いしているおがちゃぴんさんが、またイラストを描いてくれたんだ……超嬉しいんだ。

これは……何か書くしかないじゃないか!!

そんな義務感と滾る妄想を活力に小話を書きました。デレステイベントも頑張ります……みくにゃん欲しいので。

 

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 約10年前、彼らは決して切れない『縁』で結ばれた。

 でも、同時に……その『縁』は鎖となって、彼らを締め付け続ける。

 

「……」

 とある平日の昼下がり、東日本良縁協会仙台支局。

 自席でパソコンに向かい合っていた統治は、1人、引き出しに閉まっておいた1枚の写真を取り出していた。

 それは……あの時が残された唯一の記録。研修中に撮影された、3人の写真だ。

 ユカが正式に仙台の所属になるため、福岡の許可を取りに向かったユカと政宗。無事に許可がおりたことに統治も内心安堵していると、ユカが封筒から1枚の写真を取り出し、彼に手渡す。

 それが何なのかを脳が理解した瞬間、色々なことを思い出してしまった。

 

 写真の中で苦笑いをしている、10年前の自分。

 その隣にいる女性は……現在の姿と、ほとんど変化がない。

 

 あの研修は厳しく、そして楽しかった。

 初めて『名杙』という枷が外れ、1人の『縁故』として接してくれた教官、そして……仲間。

 一度バラバラになった3人は、思わぬ因果で再会し、困難をくぐり抜け、今は同じ職場で働いている。

 おかげで仙台支局にも戦力(『縁故』と事務員)が増え、更に多くの仕事に対応出来るようになった。人員不足という問題がとりあえず解決し、次のステップへ進もうとしている。

 けれど……根本的な問題は、何一つとして解決していない。

 

 ユカは相変わらず生存綱渡りだし、政宗は相変わらず自己犠牲が強い。

 先日の桂樹と蓮の一件も、やむを得ないとはいえ……自分の根幹をなす『縁』を第三者に切り渡すなど言語道断だ。

 

 写真の中にいる自分に問いかける。

 俺は……名杙統治は、何か変わっただろうか?

 

 刹那、入り口の扉が大きな音を立てて開く。そして――

 

「――ちょっと政宗!! あたし、そげなこと聞いとらんっちゃけど!?」

「だから、ケッカには関係ないって何度言えば分かるんだ!? 今回は俺の仕事だ、お前はノータッチだろうが!!」

「やーだーやーだーやーだっ!! あたしも行くって統治からも言ってやってよ!!」

 急に話をふられた統治は、取り出した写真を片付けて引き出しを閉めつつ、眉をひそめて冷静に返答する。

「……話が見えない。一体、何を言っているんだ? あとドアを閉めてくれ」

「おぉっと失礼。政宗、ドア閉めとってー」

「どうして俺!?」

 ユカにアゴで使われた政宗は、結局扉を閉めに引き返していく。

 その間に統治のところへたどり着いたユカが、口元に手をあてて、ヒソヒソと小声で理由を説明してくれた。

「ねぇ統治、仙台に新しい水族館が出来たこと、知っとる?(※1)」

「当然だ。名杙も出資しているからな」

「そうなん!? じゃあ年パス欲しい……」

「……タカリか?」

「ち、違うよ!? それくらい自分で買うけんね!!」

「だから、話が見えない。山本は何が言いたいんだ?」

「その、水族館関連の仕事を政宗が取ってきたとよ。何でも一部水槽で魚が育たず死んでしまうことが多いから、何か原因があるんじゃないかって。んで、明日、それに1人で行くって!!」

「……佐藤は至極当然のことを言っていると思うんだが……」

 ここまで聞いてもユカが激しく抗議している理由がさっぱり分からず、統治は更に顔をしかめて、まるで子どもに言い聞かせるようにゆっくり説明をする。

 もしかしたら福岡時代には、対人間以外の仕事がなかったのかもしれないから。

「恐らく、水槽内にいる生物同士の『縁』が絡まって、循環の邪魔をしているんだろう。だから、余分な『縁』を『切って』整理すれば問題ない。その程度、佐藤1人で十分だ」

「そげなこと分かっとるよ!!」

「……じゃあ何なんだ。何をそんなに憤慨しているんだ?」

 いい加減ウザいぞお前、と、ジト目で訴える統治。そんな彼に……ユカは両手を握りしめ、強い眼差しで訴えた。

「だ、だって……明日、マスコットキャラのモーリーとSuicaのペンギンが、イルカショーで夢の共演をするんよ!? しかもそこに、南三陸のオクトパス君も来るって書いてあったし!!(※2)」

 

「……はぁ。」

 

 だから? 以外の感想が出てこなかった。

 

「反応が薄かよ統治!! ゆるキャラ同士の夢の共演を政宗はバックステージ込みで見ることが出来るんよ!? ズルくない!?」

「ズルくないだろう。仕事なんだから」

「うがー話が通じん!! っていうかあたしの味方がおらん!!」

 頭を抱えて嘆くユカの背後に……彼女の1.5倍はある彼が、ぬーんとそびえ立つ。

「――それだけ非常識なこと言ってんだよ、ケッカ。帽子外して外出禁止にしてやろうか?」

「そ、それは困る……だからあたしも連れてってよー!! ペンギン見たい、ペンギン見なきゃ仕事出来ないー!!」

「ケッカの主食はペンギンじゃねぇだろうが。第一明日のその時間は、前々から気になってる『遺痕』を処理してくるって話だろう?」

「じゃあ今から行ってくる!!」

「個人の敷地に入る許可がおりたのは明日の指定時刻だけだ。その許可を取り付けるのにどれだけ苦労したと思ってるんだよ……それ以外で入ると、不法侵入で連れて行かれるぞ」

 刹那、ユカはその場で崩れ落ち……おいおいと肩を震わせる。

「うぅ~……だって、その仕事を終えてダッシュで水族館行っても……電車とバスの乗り継ぎが悪いけん、最後のショーに間に合わんもん……3匹揃うのはその回だけなんやもん……」

 おーいおいおいと泣き崩れるユカに、政宗と統治は顔を見合わせ……肩をすくめた。

 

「……佐藤、その仕事は何時からなんだ?」

「俺は15時から水族館にいる。展示やショーの関係で、何時に始まって何時に終わるか分からないが……16時には終わってると思うぞ」

「山本、そのショーは何時からなんだ?」

「……16時。あたしの仕事は15時から秋保地区(※3)やけん、どう頑張っても16時には間に合わんとよ……」

「秋保か……」

 仙台の奥座敷、風光明媚な温泉地を思い浮かべつつ、統治はパソコンでブラウザを起動し、グー◯ルマ◯プを開く。

 そして、出発地と目的地を入力し、政宗に目配せをした。

 政宗は明日、社用車ではなく……電車とバスで水族館に行け、と。

「山本、その仕事は5分で終わるか?」

 統治に問いかけられたユカは嘘泣きをやめて顔を上げ、目を丸くして首を傾げる。

「多分大丈夫だと思うけど……どうして?」

「俺が明日、山本に帯同する。これを見てくれ、車で移動すれば……」

「え……?」

 統治が指差す画面を見るため、ユカはノロノロと立ち上がり……目を見開いた。

 

「秋保地区から高速道を使えば、仙台港までは約35分で到着する。山本が5分以内で仕事を終わらせれば、16時に間に合うはずだ。俺も水族館の関係者には挨拶をしておきたいし、このプランでよければ協力出来るんだが……どうする?」

 自分を試すように見つめる統治に、ユカは口元に笑みを浮かべ、握った拳を突きつける。

「……3分で終わらせるけんね。統治、道を間違えたら承知せんよ?」

「努力する」

 統治もまた、ユカの手に自分の握った手を軽く接触させて、約束は完了する。

 そして……喜ぶ彼女の後ろで肩をすくめる政宗に目を向けた。

「悪いな統治、俺が時間を調整出来れば良かったんだが……」

「気にするな。こうでもしないと……山本は仕事に身が入らないし、佐藤は自分が無理をしてでも両方を回ろうとしただろうからな。俺も……」

「統治……?」

 

 この先を口にするのは、少しだけ恥ずかしいけれど。

 でも……今は、素直にそう思うから。

 

「……俺も、この支局の仲間だ。出来ることは手伝う、それだけだ」

 そう言う統治に政宗は笑顔を向け、ユカの横から握った手を突き出す。

「分かった。明日はよろしく頼むぞ」

 統治の手がそれを押し返し、約束は完了した。

 

 あの頃は出来ないことが多かった。それは今でも残っているけれど。

 でも……今は、あの頃よりも先へ進むことが出来る。

 その先に何があるのかは分からないけれど、でも、きっと……。

 

「ねーねー政宗、水族館の年間パスって、買ったら経費で落ちる?」

「そういうことは、まず片倉さんに聞いてくれ」

「絶対無理やん!!」

 

 目の前にいる2人と一緒ならば、もっと強気で進むことが出来る。

 鎖を断ち切る、そんな未来へ。

 

 

 

※1→仙台うみの杜水族館(http://www.uminomori.jp/umino/

 名杙も出資しているそうです。まぁ、名杙は官民問わず、東北の巨大事業に関わっていると思います。

 

※2→スケートを滑るペンギンのモーリー(http://www.uminomori.jp/umino/mollie/index.html

ご存知Suicaのペンギン(http://www.eki-net.biz/suica-goods/top/CSfTop.jsp

 

そして、南三陸町のオクトパス君(http://ms-octopus.jp/

左にいる赤いタコです。

 

ユカのペンギン好き設定は、小説本編でもチラッと登場しました。特に深い意味はありません……Suicaで2人に繋がりを作るために作った設定のような……。(ヲイ)

余談であり当然ですが、こんなゆるキャラが大集合するショーは実際に開催されていません。でも、イルカとアシカのショーは連日開催されていますよ!!

うみの杜水族館のイルカプールは柵がないので、間近でイルカのジャンプを体感出来ます。濡れると寒いのでご注意くださいませ。

 

※3→霧原さんは温泉へ行きたいらしい。秋保地区は温泉地として全国的にも有名ですが、そこへ向かう仙山線(電車)は、落ち葉や強風や動物侵入でよくストップしている印象があります。

そして、高速道路を使えば35分で行ける、は、霧原もグ◯グ◯マップで確認しました。でも……統治、土地勘ないんだよなぁ……。

 

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ここ最近、『エンコサイヨウ』に関する小話が「ぶわーっ!!」と浮かんできて、とにかく文字化したかったので書いていて楽しいっす!!

改めて、素敵なイラストを本当にありがとうございました!! デレステイベント頑張ります!!(ヲイ)