これは、大体10年前からの記録(汗)であり、霧原菜穂の記憶です。
オンライン物書きを自称する割に、読み物として面白い日記というわけではありませんが……小説を含めて更新していこうと思っていますので、どうぞどうぞ、時間の許す限り、肩の力を抜いて、お楽しみくださいませ。


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2016-12-04

縁故採用四重奏・後日談『常連の秘密』

テーマ:創作物語

「こちらが、お礼になります」
そういってユカに差し出されたのは、大手デパートの包装紙に包まれた、軽い「何か」だった。
「雛菊さん、これは?そもそもなんでここにいるんですか?」
政宗と統治が声を揃えて雛菊に問いかける。
なぜ雛菊がこのようなものをユカに渡すのか、そもそもお代というか報酬は裏で処理されたはずだった。
なのに今更、お礼、である。しかもユカにだけ。しかもわざわざ仙台で。
「いえ、まぁ今回の件で香澄さんと悠樹さんの縁は良くなると思いますし、私も見守ってればいいかなぁ…と思っていたのですが…」
そして、彼女は笑った。いや、笑ったように見えただけかもしれない。
「3人は腐れ縁で繋がっているようですし、良縁協会常連の私としてはこれくらいのサービスはしてもいいかなーなんて思ったんですよね。今後もよしなに、ということで♪」
政宗は雛菊を見つめたまま、何か違和感を覚えていた。
「おい、ケッカ。それ開けてみろ。あと統治、雛菊さんの縁、見えるか?」
「はいよー…っと…、ニット…帽…?」
何で。なんでなんでなんで。あたしは皆の前で帽子を脱がなかった。勿論雛菊さんの前でも、だ。
「どういうことですか、雛菊さん。そもそもあなたの縁は…」
さすがにこれは統治も動揺していた。一本も縁が見えないのだ。かつてあった事件のような、名杙の因縁は切れていないのに。
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて落ち着いて。久しぶりに良縁協会の方とお話出来て楽しかった。そのお礼ですよ。
 もうすぐ冬ですしねぇ。ユカさんもたまにはニット帽なんてどうかなーと思っただけですし。本当はデパ地下巡りもしたかったんですけれど…」
「雛菊さん、なんでそんな悲しそうなん!?」
ユカにしてみれば最大の秘密であり3人にとって大きな過去の出来事だ。
それを雛菊に、数時間しか会ってない雛菊にあてられ、しかもなぜか帽子の心配までされているのである。
「とりあえず、帽子をかぶっていれば普通には見えないというのも間違いではなかったみたいですし、それでは私は失礼しますね。あ、それと統治さん」
雛菊が笑顔で立ち去ろうとして…振り返った。
「ん…?」
その瞬間、何かが、震えた。
「私にだって、縁、ありますよ?ふふふっ♪」
「ちょっ!!!!」「えっ…!?」「なっ…!?」
ユカも、政宗も統治も、いきなり現われた大量の縁に動揺が隠せない。
「さてさて、それでは改めて失礼しますね。またお会いできることを楽しみにしています~。次はずんだ餅食べたいですねぇ」
後ろを向いて、雛菊は帰っていく。まるで本当に、嵐が去るように。
「それにしてもこのニット帽、結構高いやつじゃないのか…?」
「政宗~、あたしこれかぶったらなんか呪われる気がするんだけど…」
ユカが広げたニット帽からひらりと、統治の足元に何かが落ちた。
「おい、何か落ちたぞ。手紙?」

何気なくそれを手に取った統治が、内容を確認した瞬間……光の速さで握りつぶす。
「………これは。おい、2人とも、俺はもう雛菊さんに関わりたくない、出来れば一生」

そこにあったのは、ユカと政宗、2人の本名と、統治が過去にちょーっとやらかしてもみ消した恥ずかしい話、そして……また会いましょう、と書かれた雛菊からのメッセージカードだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ……いかがでしたか?

 実はこの小話、作者は霧原ではないのです!!

 なんと!! 雛菊役をお願いしている望月ゆうやさんが書いてくださったのです!!

 

 ドンドンパフパフ!!(♡ >ω< ♡)

 

 いやー、これを最初に読んだ時、「あsdっfghjkぇうろつwmんっb」となりまして。

(驚きで上手く言葉にならなかったと言いたいらしい)

 まさか、自分以外の人がこの3人(+超絶お得意様)を書くことになろうとは……もう、驚きを通り越して震えました。(事実)

 

 ……一部、ちょびーっとばっかし小説本編の内容に齟齬が生じる可能性があったので、テンションが高く面の皮が厚く超絶厚かましい霧原さんは、「ゴメン、ここの表現変えていい?(意訳)」と超絶失礼な態度をとったことを、ここで改めてお詫びさせていただきます……ゆうやん本当にゴメン。あの時のテンション、私本当におかしかった。(でも変えた←ヲイ)

 とはいえ、多分、どこを変えたのか本人以外分からないと思います。望月さんは『エンコサイヨウ』の分かりにくい世界観を理解し、文字に落とし込んでくれました!!

 あーもー本当にありがとうございます……お礼に二次元でデパ地下巡りをしてもらうよ。(私信)

 

 さて。

 約2週間にわたって更新してきましたボイスドラマ『縁故採用四重奏』、これで終了でございます。

 とはいえ、まだキャストコメントが10人以上残っていますので、各総括はコメントが終わってから、改めて長々と書き綴りますね。

 カーテンコールにお付き合いください。よろしくお願いいたします!!

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2016-12-04

『エンコサイヨウ』短編・Evermore

テーマ:創作物語

ねぇ知ってる……?

ボイスドラマでユカ役をお願いしているおがちゃぴんさんが、またイラストを描いてくれたんだ……超嬉しいんだ。

これは……何か書くしかないじゃないか!!

そんな義務感と滾る妄想を活力に小話を書きました。デレステイベントも頑張ります……みくにゃん欲しいので。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 約10年前、彼らは決して切れない『縁』で結ばれた。

 でも、同時に……その『縁』は鎖となって、彼らを締め付け続ける。

 

「……」

 とある平日の昼下がり、東日本良縁協会仙台支局。

 自席でパソコンに向かい合っていた統治は、1人、引き出しに閉まっておいた1枚の写真を取り出していた。

 それは……あの時が残された唯一の記録。研修中に撮影された、3人の写真だ。

 ユカが正式に仙台の所属になるため、福岡の許可を取りに向かったユカと政宗。無事に許可がおりたことに統治も内心安堵していると、ユカが封筒から1枚の写真を取り出し、彼に手渡す。

 それが何なのかを脳が理解した瞬間、色々なことを思い出してしまった。

 

 写真の中で苦笑いをしている、10年前の自分。

 その隣にいる女性は……現在の姿と、ほとんど変化がない。

 

 あの研修は厳しく、そして楽しかった。

 初めて『名杙』という枷が外れ、1人の『縁故』として接してくれた教官、そして……仲間。

 一度バラバラになった3人は、思わぬ因果で再会し、困難をくぐり抜け、今は同じ職場で働いている。

 おかげで仙台支局にも戦力(『縁故』と事務員)が増え、更に多くの仕事に対応出来るようになった。人員不足という問題がとりあえず解決し、次のステップへ進もうとしている。

 けれど……根本的な問題は、何一つとして解決していない。

 

 ユカは相変わらず生存綱渡りだし、政宗は相変わらず自己犠牲が強い。

 先日の桂樹と蓮の一件も、やむを得ないとはいえ……自分の根幹をなす『縁』を第三者に切り渡すなど言語道断だ。

 

 写真の中にいる自分に問いかける。

 俺は……名杙統治は、何か変わっただろうか?

 

 刹那、入り口の扉が大きな音を立てて開く。そして――

 

「――ちょっと政宗!! あたし、そげなこと聞いとらんっちゃけど!?」

「だから、ケッカには関係ないって何度言えば分かるんだ!? 今回は俺の仕事だ、お前はノータッチだろうが!!」

「やーだーやーだーやーだっ!! あたしも行くって統治からも言ってやってよ!!」

 急に話をふられた統治は、取り出した写真を片付けて引き出しを閉めつつ、眉をひそめて冷静に返答する。

「……話が見えない。一体、何を言っているんだ? あとドアを閉めてくれ」

「おぉっと失礼。政宗、ドア閉めとってー」

「どうして俺!?」

 ユカにアゴで使われた政宗は、結局扉を閉めに引き返していく。

 その間に統治のところへたどり着いたユカが、口元に手をあてて、ヒソヒソと小声で理由を説明してくれた。

「ねぇ統治、仙台に新しい水族館が出来たこと、知っとる?(※1)」

「当然だ。名杙も出資しているからな」

「そうなん!? じゃあ年パス欲しい……」

「……タカリか?」

「ち、違うよ!? それくらい自分で買うけんね!!」

「だから、話が見えない。山本は何が言いたいんだ?」

「その、水族館関連の仕事を政宗が取ってきたとよ。何でも一部水槽で魚が育たず死んでしまうことが多いから、何か原因があるんじゃないかって。んで、明日、それに1人で行くって!!」

「……佐藤は至極当然のことを言っていると思うんだが……」

 ここまで聞いてもユカが激しく抗議している理由がさっぱり分からず、統治は更に顔をしかめて、まるで子どもに言い聞かせるようにゆっくり説明をする。

 もしかしたら福岡時代には、対人間以外の仕事がなかったのかもしれないから。

「恐らく、水槽内にいる生物同士の『縁』が絡まって、循環の邪魔をしているんだろう。だから、余分な『縁』を『切って』整理すれば問題ない。その程度、佐藤1人で十分だ」

「そげなこと分かっとるよ!!」

「……じゃあ何なんだ。何をそんなに憤慨しているんだ?」

 いい加減ウザいぞお前、と、ジト目で訴える統治。そんな彼に……ユカは両手を握りしめ、強い眼差しで訴えた。

「だ、だって……明日、マスコットキャラのモーリーとSuicaのペンギンが、イルカショーで夢の共演をするんよ!? しかもそこに、南三陸のオクトパス君も来るって書いてあったし!!(※2)」

 

「……はぁ。」

 

 だから? 以外の感想が出てこなかった。

 

「反応が薄かよ統治!! ゆるキャラ同士の夢の共演を政宗はバックステージ込みで見ることが出来るんよ!? ズルくない!?」

「ズルくないだろう。仕事なんだから」

「うがー話が通じん!! っていうかあたしの味方がおらん!!」

 頭を抱えて嘆くユカの背後に……彼女の1.5倍はある彼が、ぬーんとそびえ立つ。

「――それだけ非常識なこと言ってんだよ、ケッカ。帽子外して外出禁止にしてやろうか?」

「そ、それは困る……だからあたしも連れてってよー!! ペンギン見たい、ペンギン見なきゃ仕事出来ないー!!」

「ケッカの主食はペンギンじゃねぇだろうが。第一明日のその時間は、前々から気になってる『遺痕』を処理してくるって話だろう?」

「じゃあ今から行ってくる!!」

「個人の敷地に入る許可がおりたのは明日の指定時刻だけだ。その許可を取り付けるのにどれだけ苦労したと思ってるんだよ……それ以外で入ると、不法侵入で連れて行かれるぞ」

 刹那、ユカはその場で崩れ落ち……おいおいと肩を震わせる。

「うぅ~……だって、その仕事を終えてダッシュで水族館行っても……電車とバスの乗り継ぎが悪いけん、最後のショーに間に合わんもん……3匹揃うのはその回だけなんやもん……」

 おーいおいおいと泣き崩れるユカに、政宗と統治は顔を見合わせ……肩をすくめた。

 

「……佐藤、その仕事は何時からなんだ?」

「俺は15時から水族館にいる。展示やショーの関係で、何時に始まって何時に終わるか分からないが……16時には終わってると思うぞ」

「山本、そのショーは何時からなんだ?」

「……16時。あたしの仕事は15時から秋保地区(※3)やけん、どう頑張っても16時には間に合わんとよ……」

「秋保か……」

 仙台の奥座敷、風光明媚な温泉地を思い浮かべつつ、統治はパソコンでブラウザを起動し、グー◯ルマ◯プを開く。

 そして、出発地と目的地を入力し、政宗に目配せをした。

 政宗は明日、社用車ではなく……電車とバスで水族館に行け、と。

「山本、その仕事は5分で終わるか?」

 統治に問いかけられたユカは嘘泣きをやめて顔を上げ、目を丸くして首を傾げる。

「多分大丈夫だと思うけど……どうして?」

「俺が明日、山本に帯同する。これを見てくれ、車で移動すれば……」

「え……?」

 統治が指差す画面を見るため、ユカはノロノロと立ち上がり……目を見開いた。

 

「秋保地区から高速道を使えば、仙台港までは約35分で到着する。山本が5分以内で仕事を終わらせれば、16時に間に合うはずだ。俺も水族館の関係者には挨拶をしておきたいし、このプランでよければ協力出来るんだが……どうする?」

 自分を試すように見つめる統治に、ユカは口元に笑みを浮かべ、握った拳を突きつける。

「……3分で終わらせるけんね。統治、道を間違えたら承知せんよ?」

「努力する」

 統治もまた、ユカの手に自分の握った手を軽く接触させて、約束は完了する。

 そして……喜ぶ彼女の後ろで肩をすくめる政宗に目を向けた。

「悪いな統治、俺が時間を調整出来れば良かったんだが……」

「気にするな。こうでもしないと……山本は仕事に身が入らないし、佐藤は自分が無理をしてでも両方を回ろうとしただろうからな。俺も……」

「統治……?」

 

 この先を口にするのは、少しだけ恥ずかしいけれど。

 でも……今は、素直にそう思うから。

 

「……俺も、この支局の仲間だ。出来ることは手伝う、それだけだ」

 そう言う統治に政宗は笑顔を向け、ユカの横から握った手を突き出す。

「分かった。明日はよろしく頼むぞ」

 統治の手がそれを押し返し、約束は完了した。

 

 あの頃は出来ないことが多かった。それは今でも残っているけれど。

 でも……今は、あの頃よりも先へ進むことが出来る。

 その先に何があるのかは分からないけれど、でも、きっと……。

 

「ねーねー政宗、水族館の年間パスって、買ったら経費で落ちる?」

「そういうことは、まず片倉さんに聞いてくれ」

「絶対無理やん!!」

 

 目の前にいる2人と一緒ならば、もっと強気で進むことが出来る。

 鎖を断ち切る、そんな未来へ。

 

 

 

※1→仙台うみの杜水族館(http://www.uminomori.jp/umino/

 名杙も出資しているそうです。まぁ、名杙は官民問わず、東北の巨大事業に関わっていると思います。

 

※2→スケートを滑るペンギンのモーリー(http://www.uminomori.jp/umino/mollie/index.html

ご存知Suicaのペンギン(http://www.eki-net.biz/suica-goods/top/CSfTop.jsp

 

そして、南三陸町のオクトパス君(http://ms-octopus.jp/

左にいる赤いタコです。

 

ユカのペンギン好き設定は、小説本編でもチラッと登場しました。特に深い意味はありません……Suicaで2人に繋がりを作るために作った設定のような……。(ヲイ)

余談であり当然ですが、こんなゆるキャラが大集合するショーは実際に開催されていません。でも、イルカとアシカのショーは連日開催されていますよ!!

うみの杜水族館のイルカプールは柵がないので、間近でイルカのジャンプを体感出来ます。濡れると寒いのでご注意くださいませ。

 

※3→霧原さんは温泉へ行きたいらしい。秋保地区は温泉地として全国的にも有名ですが、そこへ向かう仙山線(電車)は、落ち葉や強風や動物侵入でよくストップしている印象があります。

そして、高速道路を使えば35分で行ける、は、霧原もグ◯グ◯マップで確認しました。でも……統治、土地勘ないんだよなぁ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ここ最近、『エンコサイヨウ』に関する小話が「ぶわーっ!!」と浮かんできて、とにかく文字化したかったので書いていて楽しいっす!!

改めて、素敵なイラストを本当にありがとうございました!! デレステイベント頑張ります!!(ヲイ)

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2016-12-03

【ユカ政宗】エンコサイヨウ短編・君に届くその日まで【得票数トップの特典】

テーマ:創作物語

Twitterで24時間だけ開催した投票で、見事1位になったユカ政宗コンビ。王道は強いですね!!

最近、甘い物語に飢えた寂しい心の霧原さんが、自分の中にある砂糖成分をかき集めた物語になる……のではないかと勝手に思っています。

政宗、覚悟しやがれ!!(笑)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 年に1度か2度、疲れが抜けきれずに……体調を崩してしまうことがある。

「……」

 平日の14時過ぎ、青白い顔の政宗は、無言で支局が入っているビルの入口をくぐり抜けた。

 そのまま誰もいないエレベーターに乗り、ボタンを押す。

 壁に背中を預け、必死で吐き気をこらえた。何とか得意先で倒れることはなかったけれど……今日はあと1件約束がある。あと2時間……何とか落ち着かせないと。

 首元のネクタイを緩めながら、上昇する表示を見つめる。

「……早く……早く着いてくれ……」

 エレベーター独特の浮遊感に耐え、開いたドアから逃げるように飛び出す。刹那、足元がよろめいた。熱はないのに吐き気と倦怠感がヒドい。他人の『縁』に干渉を続けた反動だとは理解しているけれど……でも、これが自分の生業なのだから、この症状とは一生付き合っていかなくてはいけない。

 政宗が『縁故』を続ける限り。

 

 自分がやめるわけには……もとい、この状況から逃げるわけにはいかない。

 だって、まだ、目標に片手さえ届いていないのだから。

 

「俺は……俺は、まだっ……!!」

 

 歯を食いしばる。こんなところで倒れる暇はない。

 朦朧とする意識をつなぎとめ、仙台支局の扉をくぐり……。

 

「おかえ――って政宗!?」

「佐藤!?」

 

 心から安心できる2人の声を聞きながら、彼の意識は深く沈んでいった。

 

 

 ――夢を、見た。

 疲労がピークを超えると見てしまう、そんな過去の記憶。

 

 手が、どうしても届かない。

 

 伸ばしても、伸ばしても……彼女の手を掴むことが出来ない。

 何も出来ずに立ち尽くし、彼女が地面に倒れる音を聞くだけ。

 

 動けない、届かない、何も出来ない。

 

 生まれて初めて、自分と同じ境遇の『人間』と出会った。

 両親を知らず、家族を知らず、普通とは違う世界を見てしまう……そんな人間は、自分だけだと思っていたのに。

 

「あたしより年上なのに、妙に子どもっぽいところありますよね、佐藤さんって」

 

 初めて2人きりで話した合宿での数十分、星空を見上げながら、彼女は屈託のない笑顔を向けてくれた。

 

「だから、精神年齢はあたしと同じってことで……今から敬語とかやめます!! 同期なので、大目に見てくれますよね?」 

 

 しょうがないなと俺がわざとため息をつくと、彼女は笑顔のまま、右手を差し出す。

 

「じゃあ……改めてよろしくね、政宗」

 

 

 その時は、ちゃんと掴むことが出来たのに。

 

 どうして、どうしてあの時……。

 

 

「……助け、られ……」

 乾いた口の中で、言葉が消えていく。

 そして、夢の世界も消えて……目の前に、ぼんやりと天井が見えた。 

 のんびり覚醒していく意識の中、自分の現状を思い返す。

 確か、午後一番の外回りを終えて、一度支局に戻って休もうと思って、それで――!!

「――っ!!」

 意識が大急ぎで覚醒していく。寝ているのは応接用のソファーの上、ここで自分はどれだけの時間を過ごしてしまったのか……ジャケットのポケットに入れたはずのスマートフォンを探しながら、慌てて上半身を起こした。

 次の瞬間、目眩で大きくバランスを崩す。

 

 ――どんっ

 

「政宗!?」

 衝立の向こうで音を聞きつけたユカが、椅子を蹴って立ち上がる音が聞こえた。

 尻もちをついたまま、ふらつく頭をおさえる政宗に大急ぎで近づき、そのまましゃがみこんだ。そして、焦点のあっていない彼の目を真っ直ぐに見つめる。

「バカ!! 何しよっとね!! 怪我でもしたらどげんするつもり!?」

 そんなユカの両肩を掴み、政宗は今にも泣きそうな顔で問いかけた。

「ケッカ……今何時だ!? 俺は、俺は一体……」

「心配せんでよか。今は16時半過ぎやけど、統治も知っとる得意先やったけん、連絡して行ってもらっとる。第一、こげな病人が来たって、先方を困らせるだけやろうもん。『縁故』の反動には特効薬がないっちゃけんが、休むしかないとよ?」

 子どもを諌めるように優しく告げるユカに、ようやく、頭が冷静さを取り戻してきた。

「……そう、か……悪い」

「悪いと思っとるなら、とりあえずソファに戻ってくれんね。それとも、座ってる方が楽?」

「……寝る」

「よし、じゃあ戻れっ」

 ユカの言葉に従って、彼はノロノロと立ち上がると……再び、ソファに寝転がった。

 天井を見上げてぼんやりしていると、視界のはしにユカが見える。

「何か飲みたいものとか、欲しいものとか、ある?」

「いや……特に……」

「分かった。じゃあ、あたしは向こうで仕事しよるけんが、何かあったら――」

 

 ――行かないで欲しい。

 

 無意識の内に、彼女の右腕を掴んでいた。

 

「政宗……?」

「ダメ……だ、俺は、まだ……!!」

 彼の虚ろな眼差しに、ユカは苦笑いでため息をつく。

 これは、『縁故』がストレスマックスの時によく現れる症状だから。

「これは……ちょーっと記憶が混濁しとるね……どれだけストレス溜め込んどったとやか……」

 それだけのことを彼に強いている現状も何とかしなければならないなぁ……と、内心でもため息をつき、ユカは諦めて、彼の頭の横に腰を下ろした。

 目線をあわせ、自分の腕を掴んでいる彼の手に、そっと、左手を重ねる。

「どげんしたと? まだ……何?」

 刹那、ユカの腕を握る力が強くなった。政宗は目を見開き、何かを追い払うように……必死で頭を振る。

「俺、は……俺はまだ、まだ……!!」

「うーん、掴まれている腕が地味に痛いっちゃけど……よし政宗、まずは話を整理しよう。あたしが誰か分かる? 答えられる?」

 目をしっかり合わせて尋ねるユカに、政宗は少し考え、答えを呟く。

「……ユカ……」

「そ、そっちですか……まぁよか。よし次、ここはどこ?」

「……こ、こは……百道浜(ももちはま)の、合宿所で……」

「はいダウトー。違うよ政宗、ここは宮城県仙台市、『東日本良縁協会仙台支局』。政宗がトップを務めとる組織だよ。分かる?」

「ひが……?」

 本人は全くピンときていない様子。ユカは再度ため息を付き、かいつまんで説明をすることにした。

「政宗は今、この組織のトップとして、統治やあたしと一緒に頑張っとると。で、ちょーっと頑張りすぎたみたいやけん、今は休んでもらっとると。OK?」

「頑張ってる……のか?」

「おうよ。政宗はすっごく頑張ってる。それこそ……こうやってぶっ倒れるくらいにね。仕事が出来るのは立派だと思うけど、体調も気にかけてもらわんと、こうして部下が心配するよ?」

 何気なく告げた言葉に、政宗は再び目を見開く。

「心配……して、くれたのか……?」

「当たり前やん。心配くらいする……って、ちょっ政宗!?」

 狼狽したユカは、彼の目尻に溢れた涙をどうやって処理しようか、そんなことを考えて……ポケットティッシュを持っていない自分の女子力の低さを呪った。

「ど、どげんしよう……そうだ、統治の机の上に箱ティッシュがあったはずっ……!!」

 掴まれた腕を振りほどこうとするが、彼の手は硬直したかのようにユカを掴んで離さない。

 これも、言ってしまえばストレスマックスの『縁故』によくある症状だった。記憶が混濁し、過去の辛いことばかりを思い出して、情緒不安定になってしまう。

 とはいえ……政宗のこんな姿を見たのは、ユカも初めてなのだけれど。

 これは思ったより重症だなーと思いながら、涙をためて自分を見つめる政宗に、努めて優しく話しかけてみることにした。

「あ、あのー政宗、ちょっと離してもらえると、ケッカちゃんは非常に助かるっちゃけど……」

「ダメだ、俺はまだ……まだ……!!」

 『まだ』、うわ言を繰り返す政宗に、ユカはもうお手上げ状態である。

「またソレか……『まだ』、どげんしたと? あたしに言えること?」

 半分投げやりで尋ねてみたユカに、政宗は軽く目を閉じ、小さく呟いた。

 

「俺は……まだ、助けられていないんだ。ユカに、手が……手が、届かなくて、まだ、まだ足りなくて……だから……!!」

 

「手が、届かない……」

 こんなに近くにいるのに、っていうか実際に今掴んでいるのに……と、思い当たって、すぐに思考を切り替えた。

 政宗が言っているのは、『今』のことじゃない。

 

 『過去』の……2人の人生において決して忘れることが出来ない、あの瞬間のことだ。

 

「なるほど……あたしにも何となく話が見えてきたよ、政宗。でも、あの時のことか……うーん、どれだけ不幸な事故だった、政宗は悪くないって言っても……納得出来んとやろうね」

 責任感と自己犠牲が時に強い彼だから、どんな慰めの言葉をかけても、心のフィルターを通り抜けてしまうような気がする。

 でも、それでも伝えなくちゃいけない。だって、それは変えようのない事実なのだから。

「あの時のことは……政宗1人が悪いわけじゃない。あたしも、統治も、麻里子様も……全員に油断があった。だから――」

「――どうしてそれをユカ1人が背負わなくちゃいけないんだよ!!」

「ふへうわっ!?」

 突然激高した政宗が勢い良く起き上がり、戸惑いしかないユカを自分の方へ引き寄せた。

 成人男性が無意識に全力を出した結果、華奢なユカの体はそのまま政宗の体に激突し……。

「……ゲホっ……」

 みぞおちを打ったユカが静かに咳き込む。

 そして、自分が予想以上に凄まじい体勢で――起き上がった政宗の太腿の上に座るような体勢で――いることに気付き、とりあえず手持ち無沙汰の左手でソファの背もたれを掴み、バランスをとった。

 初めて間近で感じる政宗の体温を意識しないよう、ユカは何とか気持ちを切り替えつつ、恐る恐る上を見上げてみる。

「政宗……」

「俺は……俺は、ユカを……守れなかったんだ。何も出来なかった、助けられなかった!! 今だって何も変わってないじゃないか!! 俺だけ成長して、お前にだけ負債を押し付けて、それで……!!」

 そこには……10年前からよく知っている彼がいて、自分に助けを求めているのがはっきりと分かった。

 

 だから。

 

「……佐藤さん、って、呼んどったね、最初」

「え……?」

「ほら、合宿の最初の頃……覚えとらん? 距離なしの政宗は最初から『ケッカ』って呼んどったけど、あたしはやっぱり年上やけんって思って、一応、2人のことは苗字で呼んどったやろ?」

「……ああ」

「本当、あの時から政宗の営業スキルは高かったとよねー……だけど……」

 

 だけど。

 

「統治が麻里子様に呼ばれて個人面談してる間、合宿所の屋上で、初めて2人で話をしたこと。覚えとる?」

「……ああ」

「その時、政宗があたしに言ってくれた言葉、覚えとる?」

「言葉……?」

「そう。お互いの身の上話を簡単にして、地味に共通点が多いって分かって……政宗、あたしにこう言ったんだよ」

 

 次の瞬間、ユカは掴まれていた右手を少しだけ強引に振りほどき……呆気にとられていた政宗を両腕で抱きしめた。

 そして……。

 

「『俺達はきっと、これからもずっと一緒なんだろうな』」

 

 あの時。

 政宗がなんの疑いもなく、年下の自分に対してそんなことを言い出すから。

 ユカはどう答えればいいのか分からなくなって……苦し紛れにこう言ったんだ。

 

「あたしより年上なのに、妙に子どもっぽいところありますよね、佐藤さんって」

 

 それが、今の2人の始まり。

 

「何も出来なかったなんてことは絶対にない。政宗も、統治も……あたしも、みんな、今出来ることを精一杯やってる。政宗はちょっと頑張りすぎたみたいやけどね」

「俺、は……」

「自分の言葉には責任をもってもらわんとね。あたしと運命共同体でいるつもりなら……まずは今、ゆっくり休もっか」

 

 次の瞬間、ユカは政宗の背中に回した左手で、彼から伸びる1本の『関係縁』を手繰り寄せた。

 そして……その『縁』に出来た枝毛部分を、パチンと切る。

 刹那、政宗の全身がビクリと反応して……そのまま再び、ソファの上に倒れ込んだ。

 そのまま深く眠ったことを確認しながら、とりあえず一度、政宗の上から降りる。

「……原因が見つかって、とりあえず良かった……」

 どうやら仕事上で繋がった相手との『関係縁』がささくれてしまい、余計にストレスを受けやすくなっていたらしい。

 政宗がユカを引き寄せたことで違和感に気付いたのはいいけれど……肝心な部分が政宗の裏側にあり、こうでもしないと手が届かなかったのだ。

 とりあえず正常に戻した……はずだが、イマイチ自信がないので、後で統治にも確認してもらおう。

 とはいえ……。

「二度目はゴメンやねー……コレ、あたしも精神的疲労(ストレス)が半端なかよ……」

 ため息混じりに呟くユカの独白は、空調の音にかき消された。

 

 ――約30分後。

「あ、起きた」

 ぼんやりした表情で体を起こす政宗は、自分の正面、応接用のテーブルにノートパソコンを引っ張り出して仕事をしているユカに気付き、顔をしかめる。

「ケッカ……? お前なー……仕事は自分の席で……やるもんだぞ……」

「えぇー……? まぁ、それだけ言えるなら大丈夫そうやね」

 ユカは苦笑いでノートパソコンを閉じると、再び彼の前に回り込んだ。

 ぬぼーっとした顔で自分を見つめる政宗と、その周辺を確認し……息をつく。

「うん……とりあえず『縁』は大丈夫そう。あたしが誰か分かる?」

「誰、って……ケッカはケッカだろう? 何を言っているんだ……?」

「よしよし、それでいいんよー。不本意やけどしっくりくるからこれ以上何も言わんことにしよう」

「……? 何かあったのか? 俺、統治が代役を引き受けたってあたりから、全く覚えていないんだが……」

 寝たままで首を傾げる政宗に、ユカは「みなまで言うな」と首を横に振った。

「気にせんでよかよ。ちょっと働きすぎの支局長さんがストレス発散しただけやけんね」

 この言葉で、政宗は自分の体調不良の原因を完全に悟った。

「そうか……悪い、迷惑かけたな」

「こればっかりはお互い様やけんね。でも、政宗にちょっと頼りすぎとったかなーって反省もしとる。あたしに出来ることがあれば、遠慮せんで言ってよかよ?」

 それは、何気なく、本当に特に他意もなく口から出た一言だった。

 政宗の力になりたい、ただ、それだけの感情で。

 そのため……。

 

「……キス」

「は?」

 会話のキャッチボールが続かない、政宗からの大暴投。

 顔を引きつらせるユカに気付いているのかいかないのか、彼は真顔でいけしゃあしゃあと言葉を続ける。

「王子様はお姫様のキスで完全に目が覚めるんだぞ。俺のやる気を起こしてくれ」

「政宗、それ普通逆だから。っていうか自分を王子様とか片腹痛いから。冗談は顔だけにしといてくれんね」

 立ち上がったユカが、冷たーい視線で政宗を見下す。

 こんな冗談を言ったら、どんな反応をするのか……まだ正常な思考回路が戻ってきていない政宗の大胆不敵な思いつきに、彼女は……。

 

「じゃあ……あたしを『ケッカ』から『ユカ』にしてくれたら、考えてあげてもよかよ?」

 

「へ……?」

 刹那、予想外の答えに政宗が目を見開いた。

 ただし、次の瞬間……目が一切笑っていないユカに睨まれる。

「まぁ、その前に……回復直後とはいえ意味不明な冗談を言うその口を、伊達先生にふさいでもらわんといかんね……いや、むしろ今すぐこのパソコン突っ込んでふさいじゃるけんね!!」

「いや、あのそのケッカさん、さっきのは無意識で、その……」

「言って良いことと悪いことば考えんね!! この……バカ政宗っ!!」

 ユカがそう言ってノートパソコンを振り上げ……外回りから戻ってきた統治に全力で止められるのであった。

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2016-12-01

『エンコサイヨウ』短編・レプリカ

テーマ:創作物語

ボイスドラマ『縁故採用四重奏』にて、名波連・片倉華蓮役をお願いしている狛原ひのさんから、素敵過ぎるイラストをいただきました!!

 

 

こうして見ると双子の兄妹みたいですが、同一人物です。(笑)

狛原さんが小説本編の2人のセリフをアフレコしてくれた素敵動画もあるんですけど……いずれ改めて許可を頂いてから公開したいと思います。

……このイラストの掲載許可? えぇっと、狛原さんがTwitterにのっけてたからいいかなと思って……だ、ダメだったら引っ込めますスイマセン!!(ヲイ)

 

と、いうわけで(どういうわけだ)、蓮に関する短編を妄想してみました。

アレですね、彼が初めて『片倉華蓮』になった時のエピソードです。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 これまでの人生で、あんなに緊張した1時間は……他に思い出せない。

 

 2014年4月上旬、宮城県仙台市。

 平日の昼下がり、今日は春休み最終日のため、仙台市の駅周辺は多くの若者で賑わっていた。

 そんな雑踏に紛れて、彼――名波蓮は1人、片手に駅ビルの紙袋を抱え、自宅のある名取(仙台市の南にあるベットタウン)ではなく、仙台市郊外の長町を目指す。

 春から仙台の高校に通うことになり、その高校は私服通学のため、洋服を購入したいと言ってお金をもらい、仙台まで買い物にやって来たのだ。

 名取にも大きなショッピングセンターがあるが、そこだと地元の知人に見つかってしまうかもしれない。

 ……自分が女性ものの服を買っている、なんて、絶対に知られたくなかった。

 本来ならばネットショッピングで済ませるつもりだった。今はコンビニ受け取りも可能なので、自宅で家族に訝しげな目で見られることもない。

 でも……自分が女性ものの服を着る時、どのサイズを選べば良いのか、蓮には皆目見当がつかなかった。意を決して姉のクローゼットを覗き、いくつか引っ張り出してみたけれど……身長や体格が全く違うため、ちっとも参考にならない。

 そのため、蓮は恥を忍んで、仙台へ買い物に来たのだ。

 仙台ならば男女兼用(ユニセックス)の服も多いし、「双子の妹にサプライズでプレゼントをしたい」と言えば、店員さんが喜んで協力してくれた。

 買い物にかかった時間は約1時間。人生最狂のミッションを終えてホッと一息つきたいけれど、そんなことも言っていられない。

 

 全ては……明日のため。

 名杙という家をひっくり返し、姉を取り戻す……そのためだ。

 

 姉を通じて知り合った桂樹は、同じ志を持っていた。

 そして、名杙を揺さぶる第一段階として……『東日本良縁協会仙台支局』という組織が選ばれた。

 ここは最近出来た組織で、名杙家現当主の長男である名杙統治が絡んでいる。

 そして、その組織のトップは……名杙とは一切関係がない、佐藤政宗という男性。統治の友人であり、最近、名杙家に取り入ろうとしている外部因子だ。

 本来ならば桂樹が任されてもおかしくなかった、東北の大都市・仙台市。

 先の災害で対応が必要と判断され、遂に、支局が出されることになった。

 最終的な人事権は当然、名杙当主にある。統治はまだ経験が足りないため、誰もが桂樹の登用を期待していたのだが……当主が選んだのは政宗だった。

 政宗をトップにした理由として、彼の才能とも言える営業スキルと将来性、そして、名杙に頼らずに新しいことを始めたいという当主の意向があった。これまでさんざんしがらみで物事を判断し、切り捨ててきたくせに……自分の息子の友人をそんなに優遇するのか、と、当初は批判も多かったらしい。

 しかし、最初は半年もたないと言われていた仙台支局は、確実に実績を積み上げている。

 桂樹もアドバイサーとして関わっているが、今はもはや肩書だけ。政宗と統治は確実に新しい勢力として力をつけている。

 

 ……全て、自分のものになるはずだった。

 姉を追い出した名杙家は、今度は自分を……桂樹を、名杙から排除しようとしている。

 彼はそう考え、歪んでいった。

 何とか政宗や統治を引きずり下ろしたい、そう思っていた時に……蓮と出会い、運命の歯車が音を立てて回り始めたのだ。

 

 そして、計画の中で……蓮が『女性』として潜り込む、これを提案したのは桂樹だった。

 最初は当然反抗したのだが、名杙当主の長女である心愛と接点を持つには、女性の方が警戒心を持たれないこと、そして、名波蓮として潜入した場合はすぐに調べられてしまうので、時間を稼ぐという意味でも性別から偽ったほうがいいこと、相手もまさか性別が違うとは思わないことなど、利点を理詰めで説明され……「名杙家ってそんなもんなのか」と納得してしまった蓮は、一生に一度の大勝負に出ることになったのだ。

 

 正直、今でも後悔している。桂樹の計らいで仙台市近くの長町に拠点が出来て、そこに必要な道具を置いたり、着替えなどが出来るようになっているとはいえ……女装だ。自分は確かに中性的な顔立ちだと思うけれど、女装……声も少し高くしなければならない。果たして大の大人を欺けるだろうか?

 

 不安しかない。

 地下鉄に乗り、窓際に立った。窓に映る自分の顔は、よく見慣れた当たり前の顔で……多少練習してきたとはいえ、本当に上手くいくのか、不安が残る。

「……」

 もう一度、窓に映る自分の顔を見た。

 一瞬、髪の長い儚げな女性が……ニヒルな笑みを浮かべたような気がしたから。

 

 思い出せ。

 政宗とは電話で話をしたが、特に疑っている様子は感じられなかった。履歴書に写真も添付しているけれど、それに関してもツッコミがない。

 

 出来るかどうかじゃない、やるんだ。

 これは、自分にしか出来ない。

 これを成功させなければ――姉は、帰ってこない。

 

 片倉華蓮。これが、明日から使う彼の偽名。

 女性としての偽名を考えた時、真っ先に浮かんだのはこの名前だった。苗字は適当だ。

 姉の無念を背負い、覆す……桂樹からは「露骨だ」と苦言を呈されたが、蓮はこの名前だけは譲ることが出来なかった。

 無理やり繋いだ姉の『因縁』は、まだ体になじまない。たまに息苦しくて、目の前がクラっとしてしまうこともあるけど……でも、大分マシになってきた。

 

 出来る。

 片倉華蓮は、仙台支局を壊してみせる。

 

「……やり遂げてみせるよ、華蓮」

 

 窓に映る『彼女』に決意を告げた瞬間、電車は目的地に到着した。

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2016-11-26

縁故採用四重奏短編・『干渉者』、干渉される。

テーマ:創作物語

前の記事で、ボイスドラマの前半と後半を繋ぐ小話を書きました。

それがユカと政宗サイドの物語だったので、これは香澄側の小話も書かねば……という謎の思い込みが形になったケッカです。

あ、コッチにイラストはありませんよ。誰か描いてくれてもいいのよ!!(他力本願)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 どうしてこんなことになったのだろう。

 あたしは自室でボストンバックに荷物をつめながら、答えのない自問自答を繰り返していた。

 雛菊に呼び出されたと思ったら見知らぬ2人も登場して、奥村先輩との関係がただれているとか、いつも通りに戦っただけなのに先輩を喧嘩してしまって、挙句の果てにこれから仙台行き……。

 考えてもどうしてこうなったのか全然分からないけど、時間は多くない、とりあえず今は久那駅に急がなきゃ。そう思って着替えや充電器を詰め込んでいく。

 お金に関しては心配いらないとは言われた(そもそもいきなり飛行機代なんて出せない)けど、流石にちょっと心配なので、貯金箱にいれたお金も持っていかなければ。

「……仙台、かぁ……」

 久しぶりに久那市から離れることに、心のどこかで安堵しつつ……あたしは、カバンのチャックをしっかり閉じるのだった。

 

「あら、香澄さん。準備出来たんですね」

 階段から降りてきたあたしを、玄関口で出迎える雛菊。

 相も変わらずおだやかな笑顔の彼女は、仏頂面のあたしへ、こんなことを言ってのける。

「それでお土産なんですけど、仙台にはリーフパイっていう美味しいお菓子がありますので、必ず購入してきてくださいね。お店は『すがわら』ってところを希望します。後は……」

 ……ダメだ。今は雛菊の相手をする余裕がない。

 あたしは無言で彼女の横を通り過ぎると、一旦荷物をおいて靴を履いた。

「覚えられないから、後でメールちょうだい」

「あら、随分余裕がないですねー香澄さん」

「当たり前でしょう!? 一体誰のせいで――!!」

 今日のあたしは普段にも増してキレやすい現代の若者だった。思わず激高して雛菊の方を向くと……相変わらず穏やかな笑顔の雛菊が、少し静かに口を開く。

「香澄さん、その目で見てきてください。世界を守っているのは貴女がただけではない。見えないところで様々な力が作用して、この世界が成り立っていることを」

「雛菊……?」

 真意を掴めないあたしへ、彼女はピッと右手人差し指を立てて。

「うーん、要するに職場体験ってことですね。きっと、良い経験になると思います」

「はぁ……」

「ほら、バス来ちゃいますよ? これに乗り遅れたら遅刻なのでは?」

「はっ!?」

 久那駅まではバスで約20分だけど、今日は連休初日なのでもっとかかると思ったほうがいい。

 約束の時間まで残り40分。慌ててカバンをもつあたしの背中を、雛菊は最後までマイペースに送り出す。

「行ってらっしゃい、香澄さん」

「……行ってきますっ!!」

 悔しいから顔は見ない。帰ってきたら、もっとじっくりねっとり愚痴を言ってやるんだから!!

 扉の向こうに消えるあたしを見送った雛菊は……天井を見上げ、笑顔になる。

「では……『分町ママ』、うちの2人がお世話になります」

 雛菊以外は誰もいない玄関ホール。ただ……「任せて」と言わんばかりに、一瞬、空気が震えたような気がした。

 

 バスに滑り込み、空いていた2人がけの席に座って……とりあえず一息。

 休日昼過ぎの車内は、乗車率5割といったところだろうか。思ったほど混雑していない。

 窓に流れる景色を見つめていると、ポケットの中の電話が震えた。

 何かと思って取り出してみると、絢芽と椎葉からメッセージが届いている。

 さっきは移動の準備もあって、バタバタした別れになっちゃったからな……。

 まずは絢芽のメッセージを開いた。

 

『香澄さん、お疲れ様です。初めてのことでご不安かと思いますが、どうか気を強く持ってください。

帰宅後、母に『良縁協会』という組織について聞いてみました。母もその存在は知っていたのですが、深いところまでは分かりませんでした。

ただ、東原でも過去に世話になったことがあるらしく、古くから存在していた組織のようです。

そして、『良縁協会』と『堕落者』は関係ない、というのが、東原家の見解であることをお知らせします。

 

いずれにせよ、普段のお二人は決して仲が悪いわけではないのですから、山本さんや佐藤さんにご迷惑をかけぬよう、公共の場での喧嘩は謹んでくださいね。

また、お忙しいかとは思いますが、何かありましたら、状況をお伝えいただければ幸いです。私もそちらへ向かう覚悟はしておきます。

では、道中お気をつけて。行ってらっしゃいませ』

 

 実に絢芽らしいメッセージだなぁと思う。そして、ユカさんや政宗さんが所属している組織は、怪しい敵方ではないらしいことが分かった。

 とりあえずサクッと返信を送信して、次に、椎葉からのメッセージを開いてみる。

 

『やっほー香澄ちゃん、お疲れ様!!(*^▽^*)

急に仙台行きなんて大変だね。でも、正直羨ましいぜ、、、!!(@´з`@)

色々不安かもしれないけど、香澄ちゃんなら大丈夫だよ。

悠樹もたまに足りないとこあるから、しっかりフォローしてやってねヘ(゚∀゚*)ノ

 

婚前旅行、行ってらっしゃーい Σ(゚∀゚ノ)ノキャー』

 

「違っ……!!」

 と、画面に突っ込もうとして慌てて口をつぐんだ。目の毒なので一度画面の電源を切ってやろう。

 ったく……誰が婚前旅行よ……コッチはちっともそんなにロマンチックな気分じゃないっていうのに!!

「……あたし、だって……」

 あたしだって折角なら楽しみたい。奥村先輩と2人で(いや、厳密に言うと違うけど)旅行出来るなんて、久那市にいたら絶対に無理なんだから。

 でも、今回久那市を出る理由は……。

 

「俺の過去の経験からすると、こういう腐れ縁で繋がった男女は、つかず離れずの関係をズルズル続けて、互いにイライラし合いながら、互いの足を引っ張り合って自滅していくってパターンが多いかな」

 

 政宗さんの言葉が頭をよぎる。このまま、あたしと先輩の関係が改善されなかったら?

 つかず離れずの関係……まさに現状じゃないか。奥村先輩ともっと近づきたいのに、近づこうとすればするほど、いつの間にか距離が遠くなってしまう。

 目に見えない糸に絡まれている感覚だ。その糸は、あたしには見えなくて……でも、見える人には見えているらしく、不安そうな顔だから……あたしも不安になってしまう。

 こんなことで……。

「喧嘩なんてしたくないんだけどなぁ……」

 どうやって謝ろうかとあたしが重たいため息をついた次の瞬間、バスは、駅と隣接している久那バスセンター――久那センに滑り込んでいった。

 

 きっちり定刻通りに到着したバスを降り、どうしたものかと思案する。

 休日なので久那センの人の流れは多く、それぞれが笑顔で目的地を目指していた。

 そういえば、別れ際もバタバタしていて、待ち合わせの場所を聞きそびれていた。約束の時間まではあと15分。政宗さんとユカさんの携帯番号は聞いているから、どちらかに連絡してみようかな……。

 とりあえず空いていたベンチに荷物を置き、ポケットから再びスマートフォンを取り出すと……。

 

「――樋口」

 到着したバスから荷物を抱えて降りてきた奥村先輩が、あたしの姿を確認して近づいてきた。

 あたしは一度呼吸を整え、軽く会釈をする。

「お疲れ様です。先輩、政宗さん達との待ち合わせ場所って、詳しく聞いてますか?」

「いや、俺も今から連絡しようと思っていたんだ。恐らくお二人とも久那センのどこかにいるはずだから、すぐに合流出来ると思う」

「ですよねー。じゃあ、連絡係は先輩にお任せしますっ!!」

 そう言ってスマートフォンを片付けるあたしを、先輩はいつものジト目で見やり……。

「……樋口、少しいいか?」

「へ?」

 目を丸くするあたしを、彼はいつの間にか真顔で見つめている。

「ちょっと……行く前に話をしておきたいんだ」

「話、ですか?」

 あたしの答えを聞く前に、先輩は目の前のベンチに腰を下ろした。

 こんな人が多い場所で出来る話なんだろうか(『干渉者』絡みのことではないのか)と一抹の不安を抱きつつ、あたしも彼の隣に腰を下ろす。

 多くの人が行き交う雑踏の中、彼はポツリとこんなことを言った。

 

「さっきは……本当にすまなかった。感情に任せて言い過ぎたと思ってる」

 

 彼の謝罪を脳内で理解した瞬間、あたしは全力で首を横に振っていた。

「い、いえ、そのー……大体事実ですし、あたしも全力で突っかかりましたのでおあいこです。スイマセンでした」

 あれだけ悩んでいたのに、スルッと謝罪の言葉が出てくる。

 先ほどのギスギスした関係が嘘みたいだ。政宗さんの応急措置がきいているのだろうか。

 いつもどおりの空気感の中、奥村先輩は虚空を見つめ、ため息1つ。

「こうして今は普通に会話出来るのにな……」

 そう、それは形容し難い違和感と不快感。先ほどの戦いの後に感じた、憎悪にも似た先輩へのどす黒い感情は……今、これだけ近くにいるのに、一切感じない。

 理由は全く分からないけれど、ただ、今のあたし達に言えることが一つだけある。それは……。

「良かったです。とりあえず、もう喧嘩はしなくて済みそうですね」

 2人の間の空気が穏やかで、いつも通りならば……今はもう、コレ以上は望まない。

 だって、自分たちではもう、どうしようも出来ない状況みたいだから。

 先輩もまたあたしを見つめ、いつもの苦笑いを浮かべる。

「そうだな。ただ……迷子になったら怒るぞ」

「そ、そんなことありませんよ!! 子どもじゃないんですから!!」

「期待しないでおく」

「ちょっ……酷くないですか!? あたしだって、電車の乗り方くらい分かりますよ!! 飛行機は分かりませんけど!!」

「その辺りはプロに任せれば大丈夫だ。行けるか?」

 立ち上がって問いかける彼に、あたしも立ち上がり、目線を合わせる。

「当然です。先輩こそ、迷子にならないでくださいね」

 

 こうなったら、どこにでも行ってやる。

 見てくるよ雛菊、あたし達以外に……世界を守っている人の姿を。

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