海外エロイカファンが「第七の封印」をさけた理由 | 親愛なるエロイカへ

海外エロイカファンが「第七の封印」をさけた理由

海外ファンのよるエロイカのスキャンレーションは1990年代頃には出回っていたようである。
スキャンレーションとは、欧米ファン等によって英語等に翻訳し、セリフを置き換えて読めるようにしたものを指す。

エロイカのスキャンレーションは「ノスフェラトゥ」(プリンセスコミックス20巻)まで作られていたが、CMXが2004年よりライセンス出版を始めた時点で中止された。
これはスキャンレーション行う者同士の暗黙のルールでもあるらしい。


海外エロイカファンに訳された作品
エロイカシリーズ Zシリーズ

・No.1: (千のキス) ~No.15: ノスフェラトゥ
 ※その間の番外編も含む

・魔弾の射手

・Z ツェット: 3「PANZER MARCH」
 ( 戦車行進曲 )

・Z ツェット: 5 「BLACK-OUT」

・Z ツェット: 番外編 「Zの幸運」


第1話「千のキス」(1巻) から第15話「ノスフェラトゥ」(20巻) までのストーリー量といったら、そうとうなものである。
zそれだけの量を訳しておきながら、何故か「外された」作品が存在するのだ。それはこちら。

海外エロイカファンに訳されなかった作品
エロイカシリーズ Zシリーズ

・No.13:第7の封印

・番外編:インターミッション

・特別編:ロレンスくんのお便り気分


※上記番外編と特別編は「第七の封印」に関連した話なので、これらはすべて一つの話として考える。

・Z ツェット: 1

・Z ツェット: 2
「DIE FRAU AUS DER DDR」
 (東ドイツからの女)

・Z ツェット: 4
「Das Fraulein, das Z liebte」
 ( Zの愛した女性)


上記表からわかるように、エロイカ本編は 「第七の封印」関連作品がごっそりと外されている のである。

スキャンレーションのリストを初めて目にしたとき、とっさに「第七の封印」だけが抜けていることが気になった。教えてくれた人に抜けている理由を聞いた所、「私もわからない」ということだった。

・・・・それでは何故、訳されなかったのか。
上記の「はずされた作品」に共通する要素が何かないだろうか?

ここで、エロイカの海外ファンが海外ファンダムのためにこれらの作品を
あえて選ばなかった理由邪推してみようと思う。( ま、単に「直感」なのだが。)


------- そう、それはとても単純なことだ。


外されたストーリーには、
すべて「女とのからみがある」ということである。


では一つ一つ見てみよう。
「第七の封印」
この話では、これまでまるで女っけのなかった少佐に意味深な行動や発言が見られるのが見ものとも言えるシリーズ。
(き、君は 3Pするつもりなのか?! 相手はドイツ女だけってことか?! )
リヒテンシュタインでのKGBのペーパーカンパニーの情報追跡から始まり、KGBが拉致したIBMの技師と「ブラックボックス」を追ってギリシャのアテネにまでやってくる少佐たち。そこで登場するのがKGBらしからぬ享楽主義の“地中海たぬき”こと「ヘラクレス」。
硬派なミーシャとは当然合いたがわず、あの「鋼鉄の男」に人生の楽しみを与えてやるのだと、彼の女たちを使って難攻不落の少佐を落とそうと試みるのである
詳しくは14巻(秋田書店)を。
Z ツェット: 4 「Das Fraulein, das Z liebte」(Zの愛した女性)
エロイカ関連シリーズで唯一ベッドシーンのある話
消されたNATO情報部員の情報を得るため、その恋人であったアネリーゼにZは恋人の彼の弟と偽って接触する。
調査を進めるうちに敵に命を狙われ九死に一生を得る一方、この任務が一人の女性を利用することで遂行されるものであることを自覚し始める。
心優しく未熟なZは、自分が身を置くスパイ世界の非情さにやりきれない思いになってゆく。
一方アネリーゼは、信頼していた恋人もZも自分から情報を引き出す目的で近づいたことを知り、その心は裏切りられた苦しみと “寒さ”を感じていた。
詳しくは「Z ツェット」2巻(秋田書店)を。
Z ツェット: 1
Zシリーズ第1話。ここでの「女のからみ」はお笑い的なもの。
MFSによるクウェート石油相の子息令嬢誘拐計画を阻止するため、訓練所を出たばかりのZは少佐から息子の身辺護衛を言い渡される。そこでZは張り込みに泊まったところの宿主に気に入られてしまうのだ。
早朝、朝食を運んできた宿主のおばさんにスッポンポン姿を見られてしまったZ。
その日の任務を終えて夜遅く部屋へ戻ると、彼の帰りを待ちわびていたおばさんに押し倒されてしまう。そこへ運悪く少佐からの電話が…。
詳しくは「Z ツェット」1巻(秋田書店)を。
Z ツェット: 2「DIE FRAU AUS DER DDR」(東ドイツからの女)
Zシリーズ第2話。
知らずに東側にボルト釘を渡していた鉄鋼会社の技術者が殺害される。その技術者と妻は数年前に西ドイツにやってきた東側からの逃亡者だった。その妻の身辺調査にZ君が任命されるが、そこであらかじめ少佐からクギを刺さされるのだ。
少佐:とくにこれだけは きびしく いっておく
スケベ心をおこすな 彼女は美人だ
(© 青池保子「Z ツェット 1」P82/秋田書店/2000/01)

少佐:ただし… 色じかけはいかんぞ おれが許さん
(© 青池保子「Z ツェット 1」P88/秋田書店/2000/01)
彼女と接触するつどに彼女の魅力に心がゆらぐZ。
雨の中、車で送った彼女の家の玄関先でふとキスをしてしまう。
詳しくは「Z ツェット」1巻(秋田書店)を。

訳されなかった上記作品たちは、程度の差があれ、いずれも「ヘテロ」な要素を含んだ話で
あることがわかる。

スキャンレーションに訳されているZシリーズは、すべて少佐との関わりが強く描かれており、そこに主要な女性キャラクターは出てこない(Panzer March/BLACK-OUT/Zの幸運)。
海外フィクションでは少佐と伯爵がゲイカップルとしての話が多いし、少佐とZがゲイの関係である話もあるようだ。

スキャンレーションのプロジェクトメンバーは、エロイカ作品を
あくまでも「同性愛作品」としておきたかったのだと考えられる。



しかし実はスキャンレーションだけのことではなく、CMXからリリースされている正式版も同様で、
どうやら「From Eroica with Love」は、(北米では)「YAOI」の分類で売り出されているようなのだ

海外のエロイカ関連の書籍を販売しているマンガアニメ専門サイト「Akadot」を見てもそれが分かる。
↓「YAOI」のカテゴリーに位置づけられているところに注目。

「PLUS ULTRA」画集
http://www.akadotretail.com/product_info.php?products_id=23546&cPath=37_40
※価格:USD69.20/ 約6,920円 → 2009年4月値上げ確認:USD70.40/約7,040円 (100円/USDとして計算)
親愛なるエロイカへ-イラスト集Plus Ultra

「エロイカぬりえ」

http://www.akadotretail.com/product_info.php?products_id=23545&cPath=37_40
※価格:USD23.00/ 約2,300円 (100円/USDとして計算)
親愛なるエロイカへ-エロイカぬり絵

CMXがわざわざ日本のコミックを翻訳し販売するにあたっては「ウリ」を明確にしなければならない。
そいういう意味では「スパイアクションコメディ」なんかより「BOY's LOVE」の方が、今どきはひきも強くウケも良いと判断したのかもしれない。アクションもののアメコミは沢山あるだろうし。

しかし、話の骨格や緻密な描写が大変すぐれていることは、同性愛要素が有る無しよりも
マンガとしてずっと重要で立派なことで、充分なウリになるとも思うのだが、
それでも日本とくらべて漫画事情がまったく違う(主に)北米では、やはりニーズが違うのだろう。


いずれにせよ、この3月でCMX版はついに「第七の封印」に突入した。
日本語を読めるでもない限り、海外ファンで読んでいる人は少ない。

少佐に対する彼らが抱くイメージというのは、日本人読者のそれとは若干違う。
- 厳密に言えば、青池氏の考えている設定とは違う-
ストイックで「性的」なものへ異様な拒絶感をもった極度の潔癖性の軍人なのだ。

そんな彼らが 少佐が「来い」なんて言ってる姿をみてどう反応するのか、
14巻の出版される向こう半年後が大変気になるところである。

そしてCMXは、翻訳が進み冷戦後のヤオイ色がどんどん低くなっていく話を出版しつづけながらエロイカをあくまでも「YAOI」カテゴリーに入れておくつもりなのか。
これもぜひ、数年先をウォッチしておきたい対象である。


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