アース・ラン:リー・リトナー | かえるの音楽堂

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091-アースラン












EARTH RUN : LEE RITENOUR
(1986年)
 リー・リトナーのこの作品は「ハーレクイン」に続く、1986年発売のアルバムです。まずこのアルバムで話題となったのは、リーが「Synthaxe」という新しい楽器というかMIDIコントローラを全面的に使用していることです。アルバム・ジャケットでリー(イラストです)が手にしているものがその「Synthaxe」です。「Synthaxe」は英国の Bill Aitken という人が開発したもので、当時まだプロト・タイプのものでした。この開発中の新しいコントローラは当時、リーの他にアラン・ホールズワース、ゲイリー・ムーアなどのミュージシャンに貸与されていました。「Synthaxe」は一見した所、ちょっと変わった形のエレキギターみたいですが、実は全く原理が異なる物です。シンセギターはエレキギターをシンセ音源につなぎピックアップで拾った弦の振動をデジタル変換することで、色々な音色を出すことができたものです。それに対して「Synthaxe」は根本的に原理が異なるもので、左手のフィンガリング用と右手のピッキング用に別々に弦を張っているものの、実はこの弦はダミーのもので音程には全く関係ないものです。簡単に言うとネックの部分のフレットがタッチセンサーとなっており、弦を押さえて右手でピッキングすることで、その情報がデジタル信号として送られる物です。これはあくまでMIDIコントローラですので、他にデジタル音源モジュールやシンセサイザーを接続することにより楽器として音を出すことができました。とまあ「Synthaxe」について長々と書いてきました。実際、発売当時はついどこで「Synthaxe」が使われているのだろう?といった聴き方をしていたのですが、このアルバムを改めて取り出して聴いてみると各メンバーの演奏の良さといいクオリティーの高い作品です。

1.Soaring(ソアリング)
2.Earth Run(アース・ラン)
3.If I'm Dreamin' (Don't Wake Me) (イフ・アイム・ドリーミン)
4.Watercolors(ウォーター・カラーズ)
5.The Sauce(ザ・ソース)
6.Butterfly(バタフライ)
7.Hero(ヒーロー)
8.Sanctuary(サンクチュアリ)
9.Water from the Moon(ウォーター・フロム・ザ・ムーン)

 1曲目「Soaring(ソアリング)」はリーとデイブ・グルーシンの共作で、リーらしいミドル・テンポのナンバーです。シンセサイザー・ソロ部分が「Synthaxe」を使用したものと思われます。最初に書きましたように、「Synthaxe」はあくまでコントローラーですから、音だけ聴くとシンセサイザーでもシンセギターでも分かりません。2曲目はアルバム・タイトルにもなっている「Earth Run(アース・ラン)」です。ここでも全面的に「Synthaxe」を使用しています。3曲目「If I'm Dreamin' (Don't Wake Me) (イフ・アイム・ドリーミン)」は、このアルバムの中でも一押しの曲です。唯一のヴォーカル・ナンバーですが、リーとマーティン・ペイジ、そしてモーリス・ホワイトの共作です。リード・ヴォーカルはフィル・ペリーで、モーリス・ホワイトがバック・ヴォーカルで参加しています。クレジットを見ると、デヴィッド・フォスターも参加しています。やっぱりなって感じのAORっぽい仕上がりの曲です。4曲目はドン・グルーシンの曲「Watercolors(ウォーター・カラーズ)」で、リーはエレクトリックとクラシック・ギターを使用しています。サックス・ソロはアーニー・ワッツです。5曲目はグレッグ・マティスンの曲「The Sauce(ザ・ソース)」です。いかにもグレッグ・マティスンらしい曲ですが、クレジットを見るとリーはエレクトリックとクラシックのギターのみを演奏しています。6曲目も注目の曲ですね。ハービー・ハンコックの「Butterfly(バタフライ)」をカバーしています。原曲のイメージを残しつつリー・リトナー流にアレンジしています。7曲目はリーとドン・グルーシンの曲「Hero(ヒーロー)」です。ここでもリーはエレクトリック・ギターのみでプレイしています。8曲目はリーの作「Sanctuary(サンクチュアリ)」でちょっとラテンぽい曲です。デイブ・グルーシンのピアノも非常に良い感じです。9曲目「Water from the Moon(ウォーター・フロム・ザ・ムーン」はやはりリーの作ですが、アコースティックな感じの曲で「イン・リオ」あたりを思い起こさせます。ここでは、トム・スコットがリリコンで参加しています。ずっと廃盤状態で入手が難しいアルバムでしたが、この作品を含むこの当時のリーのアルバムが最近一挙に再発売しましたので、まだ聴いていない方にも是非聴いてしていただきたい作品のひとつです。