班田収授法と国民審査 その1 | 東海雜記

東海雜記

主に読書日記

選挙が終わって町もやっと静かになった秋の日。

ボクは久しぶりに伯父さんの所にいる。いつものごとく宿題を助けてもらいに。

伯父さんの家に来るのは本当に久しぶりだ。5月以来かな。なにせ伯父さんときたら

「俺は恋と革命に生きるのだ!」

なんて言い残して夏の間中家に戻ってこなかった。まあ、これは毎度のことで、気が向いたらぶらりと出かけ、ふらっと戻ってくる。仕事はどうしているのか、どうやって食べていけるのか、謎だけど。


「やっぱり家が一番いいわさ」

ならはじめから旅に出ることないじゃん。

「恋と革命はどうしたのさ」

「おのが身内をかえりみず、幸せをよそに求めちゃあいけねえよ。チルチルとミチルも言ってらあ*。それにおいらの革命はここ、まずこの場所から始めねえとな」

いけしゃあしゃあと言ってのけた。もっとも、これは照れ隠しだろう。まあ、いいや。また伯父さんと会えるのは嬉しいし、お土産ももらったし、何より宿題を手伝ってもらわなきゃね。


「伯父さ~ん。頼みがあるんだけどな」

ボクとしてはなるべく伯父さんの機嫌をとっておかなきゃいけない。

「あ~あ、のどがかわいたなあ」

「はいはい」

台所へ立ち、ティーポットを持ってくる。以前はコーヒー党だった伯父さん、帰ってきたら紅茶党に変わっていた。これも伯父さんの「革命」の一部なのだそうだ。なんだかなあ。


「う~ん、いい香りだ。やっぱりいいお茶っ葉使っていると、違うね」

何も分かっちゃあいない。これは100円ショップで買ったティーパックだってばさ。

突っ込みたいけどここはガマン。宿題の方が大事だからね。

「で、頼みがあるんだけど」

「宿題かえ」

コクコクコク。激しくうなずきながらボクは学校でもらったプリントを出す。



――――――――――――――――――――――――――――――

  中学 社会科プリント                            

  去る9月11日(日)、衆議院議員選挙がありました。

  新聞やインターネット、百科事典を使って、今回の選挙について

  興味を抱いたリ疑問を感じたことをまとめなさい。

   *どんな資料を使ったのかもはっきり書くこと

   *資料、または資料のコピーも貼り付けること

―――――――――――――――――――――――――――――――



「伯父さんも選挙に行ったんでしょ?」

「当然だ。国民の権利だからな。だからわざわざ旅を中断して戻ってきたのだよ」

ええと、さっきと言ってることが違ってますけど。

ううう。突っ込みたくても突っ込めないのがこんなに辛いなんて。もしかしてわざとボケているんだろうか。

「伯父さんはだれに投票したの?」

「正確に聞くなら『だれ』と『どこ』だよ。投票所に行くとな、本人確認があって、それから順番に1枚ずつ、3種類の紙を渡されるんだ」

「3枚も?」

「そう。1枚目はお前が今聞いた、『だれに投票するか』。当選させたい候補者の名前を書くのさ。難しい言葉でいうと小選挙区制と言うんだけど」

「ふむふむ」

「1枚目を投票した後、2枚目と3枚目をもらう。

2枚目は『どこに投票するか』で、自分の支持する政党名を書く。比例代表制、と言うんだよ」

「政党って、自民党とか民主党とか」

「そうそう。同じ政治目的を持った人の集まりだ」

「3枚目は?」

「これは選挙ではない。衆議院議員選挙と同時に行われる、『最高裁判所裁判官の国民審査』の用紙だ」

「こくみんしんさ???」






ボクの追記
*「チルチルとミチルが」と伯父さんは言っていたけど、本当はメーテルリンクが言ってたんだよね

モーリス メーテルリンク, 保永 貞夫, かみや しん
青い鳥