卒業  3話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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ホームルーム後、僕は全校集会に向かう山崎に声をかけた


「山崎!」


山崎は生気のない顔で振り返った


「さっきの、クラスメートの言う事なんて気にするなよ」


「いいんです。慣れてますから」


山崎は少しウェーブのかかった美しい長い髪をひるがえし


体育館へ向かった


僕は、少し心配気にその背中を見送った






体育館には1年生から3年生まで全生徒が集まってきた


1年生は少し大きめのサイズの制服を来ていて初々しい


校長先生の話から始まり、新人の先生の挨拶、各クラスの先生の


紹介と全校集会は続いていった


僕はそのとき、壇上の横にバケツが3つあるのに気がついた


(なんだろう…?)


となりの学年主任の安倍先生に聞いてみる


「安倍先生、あのバケツってなんですか?」


「あぁ、例の生活指導の先生の悪趣味なパフォーマンスさ


僕はどうかと思うけどね」


その時山崎が生活指導の竹内先生に壇上から呼び出された


「2-Aの山崎 あすか。壇上に上がりなさい」


生徒がくすくす笑い出した


山崎はおとなしく壇上に上がった


竹内先生はマイクテストをする様に


「あ~あ~」


マイクに向かって繰り返し、山崎を自分の横に立たせた


「いいかぁ。うちの学校はパーマ禁止になってるからなぁ


こういう髪の奴は切る事。じゃないと停学処分になるからな


ま、こういうやり方でパーマか天然なのかは区別が付くけどな」


そう、言うといきなり山崎の頭にバケツから水を3杯かけた


僕は


「ちょっ」


壇上に踏み出そうとしたが、隣の安倍先生が腕を掴んで止めた


「今は出ない方がいい。君まであのゲスに目を付けられる」


先生が先生の事を「ゲス」呼ばわりするなんてびっくりした


「よぉく見ろ。天然パーマの場合はこの様に水に濡れるとストレートになるんだ


パーマをかけてるとパーマの後が残るんだ


こうゆう目にあいたくなかったら今のうちに天然パーマの奴はストレートパーマでも


しとくんだな」


山崎は黙って、竹下先生の隣で水を滴らせながら立っていた


1年生は呆然と見ていたが、2年生と3年生はくすくす笑って見ている


その光景が僕には信じられなかった


「おい、山崎。もう、戻っていいぞ。それと後でここ拭いとけよ」


山崎は小さく


「はい」


僕に聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやくと再び自分の列に戻った


戻り際、水滴がぽたぽたと足跡の様に残っていく


生徒は山崎を避ける様に道を開けた




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