「卓球」の素人である小生…

勝算とは何か?

まず「福原 愛」ちゃんである。

当然だが「スター」を作るのは至難の業。すでに国民が知っているスターの存在。

格闘技、陸上、バレーボール…当たったスポーツ中継にはスターがいる。

陸上、格闘技においてはスター作りに苦労していたのを知っている。

「愛ちゃん」の存在は有難い。

一方、「愛ちゃん」で視聴率が獲れるならもう誰かが手を付けているはず。

「卓球」の中継が無かったのは「数字」が期待できないからだろう。


そして「素人」である事。

すでにある「スポーツイベント中継」に途中参加すると

元々のスタッフより知識が無いだけに苦労する。

誰も見た事の無いスポーツイベント中継なら小生と同じ目線で作れば

即ち「視聴者と同じ目線」になる。

小生が見て「へ~面白いな」はきっと伝わる筈。


「全権委任」

アウェイで戦うには「仲間」が必要である。

キャスターに俳優の照英さんをお願いした。

前チームの「跳び箱の番組」でずっと一緒だったから

小生の演出を素直に信じてくれる。

更にナレーターを第14話に登場する田子千尋氏にお願いした。

小生のせいで格闘技番組から降りた T さんに対するせめてもの

お詫びも勿論ある。

しかし、テレビ東京の新しい「中継モノ」は認知されるのに時間を要する。

すでにブームを迎えていた「格闘技」ナレーター田子千尋氏の一流の声は、

それだけで圧倒的な認知に繋がる。

リモコン片手にチャンネルを変えていると「魔娑斗は!」と同じ声が

聞こえる…「あれK-1?」と…チャンネルが止まる…といいな(笑)

そして「編集マン」…新しい編集所で編集をやると作業に時間がかかる。

やりたい事を説明して理解してもらうのにムダな労力は勿体ない。

10年御一緒した編集マンにお願いした。

「セットデザイン」…これもまた弊社のロゴを作った天才デザイナーに

お願いした。

「ディレクター」…弊社全員とラーメン特番で才能を発揮したフリーの連中。

小生の注文に応えられる面々を雇った。


これだけでも「勝算」としてはまずまずだった。


テレビ東京卓球担当プロデューサーはSさんという女性。

我々を面白がり…自由にやらせてくれた懐の深い方だ。

環境を整えるのと前後して実際の「卓球の試合」というヤツを観戦した。

北海道で日本代表が勢揃いする試合が行われていたのである。

初めて観た感想は…「意外に面白いかも…」だった。

視聴者に「見てもらう」動機さえ作れればイケるな…と思った。


この時、日本代表近藤欣司監督と会場の喫煙所で偶然お会いした。

名刺をお渡しして御挨拶する。

「?テレビ東京の方ではないんですね?」

「はい…下請けの会社です。テレビ東京のスポーツさんの仕事は

 初めてです。宜しくお願いいたします。」

「そうですか…今まではどんな番組をやっていたんですか?」

小生は今までの経歴をざっとお話した。

「そうですか…ならば卓球で視聴率を獲って下さい。

 そして今までの卓球のイメージを変えて下さい。

 そうすれば取り巻く環境は何もかも変わるでしょう。

 私も出来る事は全面的に協力しましょう。

 だから、INUIさん約束してくれませんか?」

と仰った。

小生は驚いた。仮にも日の丸を背負う「日本代表監督」である。

監督は今回の中継を成功させ「卓球」を取り巻く環境ごと変えろと言った。

下請けのディレクターに…である。

やる気が出ないヤツがいるか?

「約束いたします。」

近藤監督と握手した…喫煙所で…喫煙者で良かった(笑)


帰りの飛行機でずっと考えていた。

1週間の中継の全体像、選手の紹介の仕方、VTRに付ける音楽…

卓球の世界選手権は毎年開催される。

今年、来年…3年後…

「時間をかけて愛ちゃん以外のスターを育てよう。今年はその種撒きだ。」

スター候補生を北海道で見つけていた。

監督が「秘密兵器」と語っていた選手だった。


東京に戻り、丸3日かけて選手の紹介をするVTRのロケ構成を作った。

そして30ページに及ぶ「世界卓球2006」の全体イメージプロットを

作り、全員のイメージ統一を図った。

この「プロット作り」は2005年の春、深夜番組で御一緒した巨匠

Sさんのやり方をパクらせてもらったのものである。


時間が無い…

弊社のディレクター達は日本代表選手がそれぞれ所属するチームへ

ロケ取材する為に散った。