松ヶ根乱射事件 部屋に入ってきて、そこには既に人がいて、その存在に気づいて驚く。リアクションにもよるとはいえ、ただそれだけで面白いということを山下敦弘は熟知しているようで、彼の作品で何度か目にした。乾いた笑いや人間の機微、間、それらに長けて日本のジャームッシュとかカウリスマキとかなぞらえることを耳にするが、山下にとってそれは本意でないだろう。前作「リンダリンダリンダ」が当たったこともまた本旨でないように思える。ほぼ同世代ゆえ動向は気になるところだ。

風景を見てあそこに似ていると思い、クレジットにあるロケ地は想像通りそこで、その町は何度か訪れただけなのだが、雰囲気は覚えているものだといこうとでいささか心地良い。その、冬は雪が深い田舎町は平和で、道楽者と警察官の双子が住んでいた。鈴木光と鈴木光太郎は見た目も性格も正反対だった。そこでひき逃げ事件が起こり、死んだはずの被害者女性が生き返ったことから、鈴木家を中心に町の人間のサガが表面化する。守られていた秩序が乱れ、混沌としてボアダムスの音楽が的確。

川越美和といえば元えせラガーマンの僕にとって「スクールウォーズ2」の薄幸の少女であり、当時はアイドルとして売っていたはずが久しぶりに見た本作での姿はやはり薄幸、しかし彼女がスクリーンに映し出されるだけで不快感をもよおすような、すさまじいオーラを身につけていた。役どころを完璧にこなし、女優として開眼していたとは。