11年ぶりの監督作となった周防正行はそれだけ時間があったということで丹念に調査したのだろう。理詰めだった。日本の裁判の形式、実態に大きな疑問を抱いているのだろう。メッセージ性が強かった。
通勤ラッシュの中、金子徹平は女子中学生に痴漢をしたとされ現行犯逮捕された。駅員から警官へ、警官から検事へ、彼らは金子の言い分に聞く耳を持たず、それでも頑として痴漢を認めない金子は留置所へ直行することになった。可憐な15歳の少女に同情してか、その彼女の勇気ある行動を称えてか、痴漢撲滅の強い流れの一環か。金子の、極めて勝算の薄い戦いが始まる。
駅事務室に連れて行かれる際、一人の女性が金子を擁護した。駅員は彼女、市村を無視して部屋に入れない。この時の市村の発言に対して少女・古川、駅員・平山、もう一人の目撃者・月田の証言が金子と食い違う。検察側と申し合わせがあったのかは分からないが、真偽が分かるのは物語後半、証人台に立った市村の口から明らかになった。その引っ張り具合から決め手になると思われるも甘くはなかった。
周防監督が思う裁判の理想と現実に登場人物を分けるとしたら、現実の代弁者のそれのほうがはるかに多い。理想の担い手の少なさが換言すれば無罪の難しさ。“十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ”という冒頭の格言から結末の暗示が見えた。前半はコメディを支えるキャラクターもいたが、徐々にシリアスを受ける人が増え、それに応じて金子から戸惑いが消え、確信に至った最後の独白につながる。一貫した主観性が怒りに直結する。