身重での出戻りに兄の伊之吉は妹のもんに嫌味をかけ続ける。もんはそれに耐えかねて、母と末の妹のさんを振り切って家を出た。田舎の古い体質が沁みついている伊之吉の口から出る言葉は、もんや家族でなくてもげんありする。世間体ばかり気にする素振りがもんを強く思うこそのことだったと分かる時、謝罪に来たはらませた男・小畑に追い込みをかけ、なじり、殴る場面で溜飲が下がる。そして思いの丈を一しきりぶつけた後「バスはこの先を左へ行くんだぜ」と教える口調の苦々しさが逆にすがすがしくさせる。そんな兄の心をもんは知らない。
さんは製麺所の養子・鯛一と破談になりかけている。もんの事情がそれに絡んでいるが、姉に学費を出してもらっていることもあり、仕方のないことだとして姉妹は仲が良かった。意気地のない鯛一は実害を避けるその場しのぎで諦めも早い。さんも男運が悪かった。
溝口健二の「雨月物語」と同年、同じく四大巨匠の成瀬巳喜男の本作でも森雅之と京マチ子は再び共演した。二人の兄妹げんかは圧巻だった。すれっからしになっていく過程で声色が変わり、仕草も品を失い、体当たりの京マチ子は大柄。対して小柄な久我美子は失恋したとしても初々しい。兄の心を知らずとも、家族を思う気持ちは妹二人も同じ。傍観者の立場で見ている映画の観客は内を知って、彼らに幸あれと思わずにいられない。