雨月物語田舎の百姓暮らしは常に苦しい。時は戦乱で治安も悪い。金が人を変えると宮木は言う。その夫の源十郎は陶器で商いを始め、それが当たって執着心が出た。源十郎の妹・阿浜も今の生活に満足していない。阿浜の夫・藤兵衛は都で武士となって一旗上げることを夢見ていた。宮木の憂いは彼女の犠牲によって消える。その最期は長回しで、襲われてなお家路に歩みを進めようとする彼女にカメラは寄ることなく、逆に引いて奪った食糧を漁る盗賊を遠目に映した。スクリーンはかくも立体感を得る。

溝口健二の遺作「赤線地帯」を先に、しかも割と最近見たばかりのため、京マチ子に対する蓮っ葉な娼婦というイメージが拭えず、若狭が同じ女優と捉えられない。その妖艶さは、彼女が画面に登場するだけで、描かれた世界がいかがわしくなり、幻想的な光景になる。モノクロの、強い陰影が彼女を浮き彫りにして、まるで発光体のようだった。

若狭に導かれた源十郎は辛くも現実へ戻ってきた。故郷に帰り、もぬけの殻となった我が家に入る。ぐるりと一周する彼をカメラは追い、パンして再度、扉をくぐるとそこはまた現実ではない世界で次は宮木に導かれる。身の丈を知り、見合った生き方をすべきであると、ファンタジーのコーティングをかけて説く。