プロローグを除けば全編が兄弟とその父親による3人の旅路で、彼らの不協和音が画面からにじみ出ているような、重苦しい空気が漂う。アンドレイとイワンの兄弟は母と祖母と4人暮らしで、突然底へ父と名乗る男が帰ってきた。多くを語らない父はいきなり主として居座り、息子二人を旅に連れて行くという。父が帰ってきたこと、旅に行くことに戸惑いながらも始めは喜んでいた兄弟だったが、主の威圧的で不遜な態度に、弟のイワンが不快感を露にする。アンドレイは従順だった。3人のキャラクターや心情の変化が想像に難くないのは、焦点を彼らだけに当てているからだと思われる。
1週間に満たない旅の期間、天候はめまぐるしく変わった。陰鬱な曇天雨天と爽快な晴天とのコントラストが激しく、それは誰かの心象を表しているのかと予測したが、どうもそうでもない。誰かの末路に向けて不穏で安定しない様子が感情を揺さぶる。
父は自分を「パパと呼べ」と言うがイワンはそれに抵抗した。旅にも嫌気が指していたが、導かれるままに無人島へと向かった。武骨な姿勢を崩さず、命令に背くことを許さず、兄弟はおそらく自分たちが気づかない間に大人へとなっていく。疑念が晴れた時、思いに気づいた時、成長を遂げた。
アンドレイ・ズビャギンツェフの長編デビュー作はヴェネチア映画祭グランプリの名に恥じない完成度の高さと美しさ、加えて人間描写の繊細さを備え、これはフロックではないだろう。結末は悲しいものだが、それでも清涼な後味が残って余韻の写真を眺める。