麦の穂をゆらす風サッカー・ワールドカップの年に、あるミュージシャンのインタビューを見た。それが4年前か8年前か、そのミュージシャンの出身地ががスコットランドだったかアイルランドだったかは忘れたが、インタビューアーの「あなたの国は出場していませんが、応援している国はありますか」との問いに「イングランドを負かすところ」と間髪入れずに答えていたことは鮮明に覚えている。

イギリス軍の命令に背き、ケルト語で話したがために少年が殺されて物語は始まる。1920年前後、アイルランド革命が起こる頃だった。少年の死は回避できる、家族を省みない無能で無知なものだったが、誇りを貫いた果てとして同胞の義勇軍の胸に焼きついた。アイルランドのコークからロンドンへ医学留学する予定だったデミアンは葛藤の末、地元のリーダーである兄テディと共に戦うことを決意する。

圧倒的不利の戦いを強いられる中、無益な死が続く。迫られて密告し、仲間に処刑された少年は、母親が文盲だからと遺書を書かなかった。涙しながら発砲する執行役のデミアンとは幼馴染で、その母親には二度と顔を見せるなと言われる。抵抗の結果アイルランドはイギリスと講和条約を結んだが、それは完全な独立を求めるものではなく、条約の賛成派と反対派でかつての仲間同士が対峙するというさらなる悲劇を呼ぶこととなった。

生きるよりも重要な信念があり、それに殉じる。また、因果応報ともとれる最後が待っていて、冒頭と中盤での二人の少年の死と去来した。