ホラーにしろサスペンスにしろ、感情を煽る方法はいくらでもある。シートに包まれたものは人体をかたどって、ハイビジョンとDVと2台のカメラでヒロイン中谷美紀を執拗に追う。その辺りは掴みに過ぎず、心拍数を上げてやまないのは予測のつかない展開にあった。大まかな流れが全く読めない。
芥川賞受賞歴がある春名礼子は純文学ではない恋愛小説に取り組んでいるが筆が進まない。咳き込んで黒い泥を吐く。編集長の木島にせっつかれるが、一向に書けず、環境を変えることにした。木島の紹介で、喧騒から離れて沼地など自然の多い一戸建てに移り住んだ。環境は整ったとように見えたが、その家の前の住民が残したと思われるものと、隣の廃屋のような建物にいる男が、奇妙だった。
唐突な編集でタイミングがはぐらかされ、気持ちは落ち着かない。礼子の不安に加えて隣の男、大学教授の吉岡にも焦燥感がある。ミイラに魅せられた彼が抱えているもの。霊が見えるの夢か現実か、展開に翻弄されて二転三転する。
黒沢清がいる限り日本の映画は安泰だと思っている。ヒット作を作る意思さえ見えないが、映画を知り尽くしているように受け取れ、常に問題を提起する。動機はなくてはならないが、結局のところはあってもなくても同じ。