巨乳でアルコール依存症のエイコは中日ドラゴンズのファンだった。難波のアパートに転がり込んだエイコは、難馬の貯金を勝手に使ってテレビを買い、中日対巨人の中継を見ながら酒をすする。難馬はそれに何も言えないでいる。劇中の中日は、落合監督が率いている事実を踏襲する。エースはセルジオというどこの国の人間か分からない投手で勝ち頭らしい。中継でアナウンサーは他にワタナベという選手を口にする。実存するが、主砲ということはまた別の選手。
部活が終わった後も素振りをしていた難馬のもとにベーブルースの息子と名乗る男が現れた。それから10年の間、彼を伝道師として難馬は究極のスイングを求めて毎日1000回の素振りを欠かさない。社交性のない彼はある日、アルバイト先のコンビニで女子高生にキモいと言われた。その帰りに酔っ払ったエイコと出会う。欠落した人間同士の二人は一緒に暮らし、中日はリーグ優勝を決める。
灘馬の同級生でエースだった石岡は警察官になっていた。肘を壊して野球を諦め、怠惰な生活を送っている。職務を全うしない彼はある日、妻に家出された。一方、灘馬は金に困ってバット強盗となり、中日は西武と日本シリーズを戦う。
寂れて物悲しい秋の所沢を舞台に、夢破れた若くない若者たちの終わらない青春が描かれる。小さな町で因果応報が繰り返され、彼らの日常にはシンパシーを感じた。それはドラゴンズファンであることと、埼玉出身であることと、開き直りに起因する。
熊切和嘉の処女作「鬼畜大宴会」を若松孝二は酷評したとの話を聞いたことがある。連合赤軍をモチーフにしたようなストーリーを、その時代を知らない人間が撮り、学生運動を生きた時代の人間がそう評するのも、無理はないように思える。しかしそれでも本作に出演する若松監督に器を感じた。