キャストには8人の名前があって、それでも少ないのだが、主な登場人物は5人だけだった。紙屋悦子、兄の安忠、安忠の妻で悦子の友人でもあるふさ、安忠の後輩の明石、そして明石の友人で後に悦子の旦那になる永与。現在と、昭和20年3月からの約2週間の回想で映画は成り立っている。舞台も紙屋家のセットのシーンがほとんどで、そのミニマルの中、彼ら5人の会話で戦時中の悲喜が綴られた。
悦子は明石に気があった。明石もまた悦子に惹かれていたが、飛行士でいつ突撃するか分からない。同じ航空隊に属すも永与は整備士だった。悦子に一度会っただけで惚れた永与に明石は席を設ける。自らの行く末を知って悦子を任せようとし、永与もまた二人の気持ちを知りつつ悦子を守ろうと決める。“俺と貴様”の間柄である明石と永与は固い絆で結ばれていた。安忠と悦子の兄妹愛、安忠とふさの夫婦愛、悦子とふさの友情。それぞれがそれぞれを思い、察する。慎ましく美しい関係が築き上げられていた。
主役の原田知世の美しいこと。回想シーンでは20代半ばの役どころだと思うが、実際の彼女40前にして全く違和感がない。いや全くというのは誇張だが、頷かされるだけの透明感だった。何しろ僕は、好きな芸能人はと問われれば、20歳頃から彼女の名前を挙げているのであった。