日本で最も有名かつ規模が大きい廃墟は長崎の軍艦島だと思われ、それは島全体のものとして規格外だとすると、建造物単位なら兵庫の摩耶観光ホテルがブランドだろうか。日本の映画は廃墟シーンが多く、それに気づいたのは黒沢清の作品によってであり、本作はテレビで放送された、劇場用の作品ではないが、摩耶観光ホテルを舞台にして作られ、言わば僕の興味の対象として大きなシェアを占める2つの融合、その映像に惹かれた。
小泉今日子が宮沢賢治の名作「風の又三郎」を廃墟で朗読する。まずはロープウェイでの移動中。そこから降りて、次はホテルの内外で、さらには近隣の廃遊園地で、彼女は淡々と読んだ。画面の動きが少ない中で、いかに視聴者を引きつけるか。廃墟というだけでも充分まがまがしいのだが、小泉今日子の後ろで窓ガラスが割れて寂びついている観覧車が回りだすと、得体の知れない怖さが伝わってくる。
NHKの「朗読紀行・にっぽんの名作」の一つ。第一線の監督が、ネームバリューのある俳優に名作を読ませるという、企画の時点で勝ちが見える番組だ。