映像が始まったと思ったらそれはビデオテープだった。夫のジョルジュ、妻のアン、一人息子のピエロからなる家庭に、子供が書いたような無邪気で残酷な絵を添えて、そのテープが頻繁に送られる。ストーカー的な内容に一家の不安は増殖の一途をたどった。
彼らの職業と暮らしぶり、また演じるダニエル・オートゥイユの出っ張った腹、ジュリエット・ビノシュの締まりのない体からも、ブルジョア階級のにおいがする。ジョルジュには後ろ暗い過去があり、それは6歳の頃の記憶で、脅迫じみたビデオはその時の復讐だと推察した。生家に仕えていたアルジェリア人の一家がいて、その両親はアルジェリア独立戦争が起こった際に帰ってこず、その息子マジッドはジョルジュの家に養子として迎え入れることになったが、6歳のジョルジュは快く思わなかった。永らく封印されていた記憶がジョルジュによみがえる。
やましさと自己防衛。ビデオや手紙を自宅や会社、息子の学校に送りつける相手を絶対悪として、ジョルジュは立場や財産を固持しようとした。それは醜く見える。ビデオのシーン以外でも固定カメラが客観的な視線として、監督ミヒャエル・ハネケは提示するだけ、ただ委ねた。
ラストシーンは、彼らの存在に気づくまで時間を要した。半分くらいロスしただろうか。最初から分かっていたら、どうだっただろう。仮に、瞬時に気づいたとしても、作品の理解が変わってくるとも思えないので、自分の観察眼はよしとする。