野菊の如き君なりき 階級や民族の違いなど、恋の弊害は様々だ。日本の昔の田舎ともなれば周囲の声ばかり気にして、当たり障りのない普通がとみに好まれる。旧家の次男坊・政夫は中学入学を控え、寮生活が待っていた。奉公に来ている従兄弟の民子とは乳を分かつほどの幼少の頃から一緒だった。互いにほのかな気持ちを抱きながらも、それが恋と気づかず、民子にしてみれば貧しくしかも2つ年上の自分は嫁ぐにふさわしくないという潜在意識があった。政夫の兄嫁・さだと作女・お増は二人の仲をやっかみ、白い目で見ていた。「何も悪いことはしていないのに」と、政夫は不条理に腹を立てたが、迎合するしかなかった。将来を誓うも、それは破れることになる。

笠智衆が演じる年老いた政夫が故郷に戻り、船で川を下りながら船頭に話を聞かせるように過去の思い出を語ってストーリーが展開する。ほとんどを占めるその回想シーンでは、白い楕円形の枠がかたどられて郷愁を誘った。

政夫と民子はあぜ道を歩きながら野菊を見つけた。政夫は野菊が好きだという。民子も野菊が好きだという。政夫は民子を野菊のようだという。民子は政夫に野菊が好きなのかと確認する。それは悲恋となったわけだが、死ぬまで二人は思い続けた。

文芸坐にて木下恵介監督作を2本。原作は伊藤左千夫の「野菊の墓」で、戦時中の幼い兄妹の話かと思っていたら、それは「火垂るの墓」だった。どちらにしろ泣ける。