カミュなんて知らない 昔は名監督として名を馳せた人物が教鞭を振るう大学。丸井、東武、東京芸術劇場が近場の風情あるキャンパス。セリフでもわざわざ池袋と言わせて、もう架空ではなく立教大学と言い切っていいだろう。

立教大学の映画ゼミで作品を作ることになった。高校生が全くの他人である女性を理由もなく殺害したという、実際に起こった事件を題材にする。学生たちは意見をぶつけ合いながら映画を製作した。

時間軸をいじらずにクランクイン前の1週間を描き、群像を捉える。「黒い罠」「ザ・プレイヤー」を語りながら長回し、「ベニスに死す」「アデルの恋の物語」を引き合いに出してキャラクターを説明する。映画好きが、映画作りを題材にして、映画好きを前面に出した、映画好きに贈る、映画だと感じた。しかし、それら引用された名画が未見のエセ映画好きの僕でも楽しめたのは、12人もの主要な登場人物が丹念に描かれ、個性や相関関係がはっきりしていたから。元映画監督の中條教授が、美しい生徒レイに恋心を抱く。常軌を逸した目で彼女を見る。女神のごとく彼女はその実、教養を感じさせない女だった。落胆さらに恥もかかされ、中條は我を失う。皆、浅はかだった。

映画作りに目を輝かせながら尽くし、それ以外にも恋や就職活動など将来を案じ、青春を謳歌しているように見えた。何か目標に向かってやり遂げることの充足を僕は、味わったことがない。苛立ちや腹立たしさが混じった羨望を向けて共感できないとして、しかし確信犯的にそんな感情移入をさせまいとする柳町光男の気概が、戯曲のような演出に感じられた。

移転したユーロスペースは当然きれいで、やはり禁煙だった。座席は見やすい配置で、スクリーンもかなり大きくなっている。会員になったが、会員証はオープンに間に合わなかったようで後日渡すという。