サッカーが好きな少年ガッセムは、それが高じて学校の勉強が疎かになっている。近く、テヘランで大きな試合があることを知った彼は、テヘランまでの旅費と試合のチケット代を稼ぐために、手段を選ばず金を工面した。どこか「大人は判ってくれない」を想起させる。
友人のアクバルが、サッカーをしているガッセムに「学校に間に合わないぞ」と声をかける。支度をして学校へ向かう途中に、後で父が払うからとねぎってサッカー雑誌を買う。白い布を頭に巻いて「歯医者に行っていた」と遅刻の言い訳をして、授業中は雑誌を読む。それを見つけた先生は「また落第したいのか」とガッセムを教室から追い出す。冒頭の件で、彼の性格を全て表現した。
鑑賞していないキアロスタミ作品を制覇するべくまず本作。おかげでイランの国柄もおよそ把握した。アッバス・キアロスタミはよくもこれだけ粗暴さと哀愁を持った少年を見つけたものだ。金を親から盗んだり、同年代の子供たちをだましてせしめたりしそうな顔つきをしている。教頭先生に体罰を受けて泣き叫ぶガッセムも、教室の外からその泣き声を聞くアクバルも、その怯え方は演技とは思えない。キアロスタミがまた子供たちを騙して素の表情を撮ったと思われる。相変わらずの悪い大人ぶりを発揮して、少年を心理描写まで事細かに追った。