メゾン・ド・ヒミコ 登場人物の誰かに強いシンパシーを抱くことはなかった。老人ホームに介護とボケ、これは身近にあるものの、だからといって良し悪しとは別問題だ。ストーリーや演出、テンポが自分の好みということもない。秀でていたものが不明瞭と告白して、これは傑作だと僕は言おう。

ゲイの老人ホームであるメゾン・ド・ヒミコは、銀座でバーを開いていた卑弥呼が店をたたんで建てた。若くて容姿端麗の晴彦がホームを切り盛りしている。卑弥呼の愛人でもある。彼は卑弥呼の娘の沙織にホームの手伝いを頼んだ。沙織は自分と母親を捨てた父親・卑弥呼を憎んでいる。長いこと音信普通で存在すら否定していた。母親が残した、死に際の入院費などによる借金に奔走している最中で、高額の報酬を聞いた沙織は晴彦からの依頼を受諾する。

卑弥呼が日に日に活力を失い、ホームの住民の一人ルビイが脳卒中で倒れ、ホームのパトロンが逮捕されて経営危機に陥って、残されたゲイたちはエゴを貫く。沙織はそれに反発するが、これまで彼らは性的弱者として虐げられて蔑まれてきて、理想郷を作って肩を寄せ合いながら暮らしている現状を、晴彦は否定されたくなかった。沙織もホームの人間たちも孤独だった。しかし気丈に生きている。それこそがユーモアで、老いを笑い、ホモセクシャルを笑い、醜さを笑う。沙織が卑弥呼に罵声を浴びせ、そのレスポンスが一言「でも、あなたが好きよ」これに集約された。

オダギリジョーが驚くほど美しい。無造作にボサボサの髪に加えて、顎のほくろから毛が生えているのではないかと錯覚する無精髭にもかかわらず、透明感がある。「二人ほどゲイの世界に引き入れた」というセリフが妙に頷けた。対照的に柴咲コウは役柄もあってかスタイルまでもブスで、泣きじゃくった時などとりわけ醜い。If you want toタッチを望むなら、不器用なりに彼らは体温を感じ合う。二人の絡みのシーンは繊細でエモーショナルだった。

半年以上シネマライズから遠ざかっていたら、座席が指定制に変わっていた。若気の至りでミニシアター被れだった頃に足繁く通っていたが、今では居心地が悪い。予告編時では照明がスクリーンに反射して、出入口が一重でカーテンもないために誰かが通るたびに光が漏れる。些細なことで集中力が削がれて傑作に水を差す。