山本直樹の短編集「夢で逢いましょう」に「のんきな姉さん」と「眠り姫」が収録されている。そのまま七里圭監督の長編処女作と2作目。山本氏も本作を絶賛したらしい。音楽はライブ演奏という異才っぷりを発揮して2日間だけの特別上映だった。
スクリーンの前に楽譜と椅子が置かれている。暗幕後に風景画が映し出されると、指揮者と演奏者が四方から集まってきた。ここから演出は始まっているようだ。十数名からなる楽団の荘厳なライブが映像を彩る。
非常勤女教師の青地は眠くてたまらない。長く付き合っている恋人とは腐れ縁で結婚を考えている。学校で同僚の面長な野口もまた眠れず、睡眠薬を服用している。長さをデフォルメした野口の似顔絵を描き、それを本人にファックスを送る青地。絵の周りには。“長”の文字を多用したメッセージが連ねてある。ファックス機から徐々に長い似顔絵が出てくる様子がさらにそれを引き立てた。妄想に支配されがちな青地に空虚感が襲う。人物はほとんど出てこない。声が聞こえるだけである。否が応でも想像力。例えば電車に乗っている時は、本人の視点から移りゆく景色を眺める。例えばレストランで食事をしている時は、作為的に人間の存在を削除する。例えばセックスをしている時は、灰皿のタバコの煙で状態を暗示する。自然と、人間を映す必要をなくしていた。
セリフは原作コミックにかなり忠実だった。そのコミックも内田百閒の「山高帽子」が元となっており、それとはだいぶ趣が変わったようであるが、随所にそれらしい言葉が感じられた。「一つの思い込みを捨てて開放されても、結局思い込みから開放されたというのもまた一つの思い込みで、また別の思い込みにはまる」尽きることはない。
制作者が学友で、彼とはたまに連絡をとっていたのだが、彼が招待した友人たちとは10年ぶりに遭遇した。予期せぬ再会で驚く。皆、面影は残すも、髪が薄くなっていたり額が広くなっていたり。