再生の物語は数あれど、アキ・カウリスマキ作品は他と一線を画す。舞台はフィンランドのヘルシンキ。そこに流れ着いた一人の男が暴漢に襲われる。頭を打たれた彼は記憶喪失になった。道で倒れていたところを慈悲深い近所の住民に助けられ、徐々に生きる術を身につけていく。そんな中で彼は救世軍のハイミス、イルマに恋をする。記憶がなくなっても女性の口説き方は身についていた。生きる希望を見出し、彼は行動的かつ能動的になる。
彼らは笑わない。多くを語らない。それでもコミュニケーションが取れ、信頼関係を築ける。真顔で見つめあい、ただ頷く。硬い握手を交わした後、互いに背を向けてそれぞれの行く道へ進む。貧しさや冬の厳しさ。武骨な彼らは日本・東北地方の人間を彷彿させる。北の気質をまざまざと見せつけられた。食堂車での演歌と日本酒の違和感がないこと。
生活の厳しさは、神を肯定しつつ神にすがらない。「礼は俺が死んだときに情けを」なんてクールにも程がある。徹底したリアリズムが対話で顕著に表れる。その対話のシーンは日本が誇る巨匠の作品で見たような切り替えしショットで親近感を覚えた。
身元が分かった男は一旦地元へ帰り、そしてヘルシンキに戻ってきた。幕切れでイルマと二人、去っていく。そして二人がまたいだ線路を汽車が走る。映画そのものへのオマージュ。