幼少時のトラウマから女性とうまく接することができない漫画家と、体を触れられることに過度の拒否反応を示す女性編集者との偏愛を描く。この二人以外でも登場人物は皆、精神状態がスレスレである。それだけに怖い。演じるのは大人計画オールスターズ。唯野未歩子も相変わらずの存在感だ。
妄想癖のある漫画家フミオについた新人の編集者ユキ。彼女自身の持つ障害から恋人のマサルと亀裂が生じ、それが仕事に支障きたした。衝動的になったフミオに頬をペンでえぐられ、ユキはその穴から血を欲するようになる。人と分かち難い二人は、お互いを傷つけ合いながらも行動を共にする。
人のしゃべり方一つでも恐怖をあおられることが分かった。編集長がユキにダメだしをする際、途中で「おまえ」から「きみ」へ変わる。他のシーンでも敬語から口語、逆に口語から敬語へ急に変わることで緊張をみなぎらせる。物語の前半は恐怖とともにエロチシズムも散りばめられていた。フミオの原稿を正座で待ち、しびれるユキの足先。ユキが持つお椀へ、マサルが執拗に盛る中華丼の具。セックス抜きで官能的に見せる辺りはAV歴の長い井口昇の手腕がうなる。ユーモアを念頭に、そこここと笑いも取り入れる。松尾スズキは台本を読んでいないらしいが絶妙のセリフ回し。