
カッティングが冴える。地味で野暮なジョエルと気分で髪の色を変える奔放なクレメンタインは、他に誰もいない冬の海辺で出会い、恋に落ちた。幸せそうなジョエルの顔から一転、次のシーンでは二人に別れが訪れ、彼は悲しみに打ちひしがれている。彼女は記憶の消去を扱うラクーナ社でジョエルの思い出を消し去っていた。彼もそこでクレメンタインとの日々を記憶から抹殺しようと試みる。ここから、芽生えから別れまでの間を、時間軸を遡って映し出す。「メメント」を思い出した。
ジョエルが寝ている最中に記憶除去は行われる。夢の中で彼は、クレメンタインと過ごしたシーンを再現する。当時のクレメンタインと今まさにそれを消そうとするジョエル。葛藤が生まれ、夢ならではのTPOの交錯がはじまる。またそこでは、消去作業をするラクーナ社の技師たちの、記憶操作によるドラマがあった。記憶を抹殺されて目を覚ますジョエル。そこで冒頭のシーンに戻る。物語は一週半した。
誰もいない海辺で出会ったはずの二人。ラクーナ社で技師に質問されて、ジョエルはクレメンタインとの出会いを、友人が海辺で催したパーティーの時だと語った。そこから受け手の混乱が始まる。記憶は厄介だ。覚えておきたいことを忘れ、消し去りたいことが残る。あの時こうしていれば、と誰しもが抱く思いをファンタジックに表現した。
主演のジム・キャリーによると、彼が診察椅子に座ったもう一人の彼を見る場面で、ゴンドリーは「カメラがパンしている間に全速力でカメラの後ろを回って、その間に衣装を変えて椅子に座ってくれ」と指示したらしい(プログラムから引用)。これは自らが制作したPV、Lucas「Lucas with the Lid Off」でも使われている手法だ。アナログな幾何学が彼の魅力。