スパイク・ジョーンズが手がけるPVはどれも突飛で、リズムが際立つゴンドリーとは対照的である。映画においてもそれが言えるように感じる。前作「マルコビッチの穴」でも脚本を担当したチャーリー・カウフマンとのコンビは、現実と虚構あるいは妄想の境界線を曖昧に仕上げた。

映画のストーリーはこう。前作で成功をおさめたチャーリー・カウフマンが、次回作として雑誌編集者のスーザンの著書で、栽培家ラロシュを描いた「驚くべき蘭コレクターの世界」の映画脚本を執筆することになった。しかしチャーリーはアイデアが浮かばない。行き詰った彼はスーザンを掘り下げるべく、彼女の動向を追う。

この3人は全て実在する人物で原作の著書もある。下敷きにノンフィクションがしっかりとあり、その映画制作の過程を題材に取り上げてフィクションを作り上げるというしたたかさ。主要登場人物で唯一架空の人間であるチャーリーの双子の弟ドナルドの存在がコントラストに拍車をかける。

妄想癖のあるマイナス思考のチャーリーと前向きなドナルドとの二役のニコラス・ケイジが、容姿に変化がない二人を仕草と表情で演じきる。兄と同じ脚本家を志すドナルドはカリスマライターのセミナーに通う。スランプに陥った兄チャーリーは同じセミナーに顔を出し、そこで映画におけるボイスオーバーを否定された。心の声であるナレーションが常に入る本作を自嘲している。ユーモアしかない。されどユーモアこそが全て。