兄弟監督合作を選ぶ。一人っ子の僕にとって、血の濃い二人が共同で作品を作る行為は生理的にも物理的にも理解が不可能だ。それだけに興味がある。コーエン兄弟は兄のジョエルが監督、弟のイーサンが製作という形を長くとっていた。数年前からクレジットが共同監督になっていることを考慮すると、本作も含めて以前からその傾向があったように思える。

この兄弟は話の持って行き方や演出が何しろうまい。相当に頭が良いのであろう。引き込ませるのはスピーディーなだけではない。子宝に恵まれない夫婦ハイとエドが、著名人が五つ子を生んだニュースを聞いてその内の一人を盗む。原題は「RAISING ARIZONA」。訳した人はハワード・ホークスの「赤ちゃん教育」が好きだったのだろうか。

赤ちゃんを盗みに屋敷に侵入したハイ。1階では家主の夫婦が椅子に腰掛けている。ここではカメラを常に固定してある。あちこち動き回る赤ちゃんにハイが翻弄される2階は、視点がめまぐるしく変わる。ドタバタ感を比較が助長した。圧巻だったのが元強盗のハイが雑貨店でオムツを盗もうとして、銃を持った従業員と警官に追われるシーン。逃げ回るうちに民家の庭に入って犬にも追いかけられ、道を走っていた車をジャックする。それと、彼を助けようとするエドが赤ちゃんを乗せて走る車、パトカーが入り乱れる。まるでクラシックなスラップスティック・コメディーのようだ。ニコラス・ケイジのとぼけた顔がピーター・セラーズとだぶる。