ラストシーン、暗幕に変わるタイミングが自分の意思とピタリはまる映画は、それだけで全てが良くなる。塚本晋也監督作品は陰鬱さや得体の知れない恐怖に溢れていて、本作もそれが該当した。しかし、今回は不気味さの中で普遍的に美しい場景を挟んできた。そしてラストが僕と呼吸が合い、なんとも心地よい。

交通事故により記憶をなくした青年、高木博史。事故前は医大に通いながらも医者の道に進もうとしていなかったが、記憶を失ってからは解剖に没頭する。大学に再び入学した彼は、実習で腕に刺青が入った若い女性を解剖することになった。その検体は博史が付き合っていた恋人の涼子だった。博史の記憶が断片的に甦っていく。フラッシュバック。博史は涼子との交わりを見る。解剖を重ねるたびに涼子との日常が現れる。博史は狂気じみていく。どちらが現実なのかの区別がつかなくなってくる博史の心情を僕が汲み取れた。正確には博史に汲むことができなかったが、移入させようとするものがあった。

涼子を演じた柄本奈美はバレエダンサーで、なるほど南国の砂浜や廃墟で踊る姿がエキセントリックだ。異様に細い体の中に力がみなぎる。浅野忠信は言わずもがなの圧倒的な存在感で博史を熱演していた。今、邦画は彼と共にある。大学の授業風景、4人の教授が個性的な話し方と仕草で教鞭を執るシーン。彼らはこの場面にしか登場しない。本物の教授かと思い違いをさせるベテランの脇役がまことに面白い。