アンゲロプロスの映像はなにしろ美しい。1枚を切り取れば秀逸な写真になる。1ショット切り取れば稀有なCMになる。数分切り取れば良質なショートフィルムになる。上映時間は232分。驚異的な長さだ。基本的に長い映画は集中力が持たないので苦手である。ハシゴや二本立ては到底無理な体質だ。ビデオやDVDなら挫折するであろう映画を、アンゲロプロス監督の特集上映をしていたので見ないわけにはいかなかった。予想以上に混んでいる。今夏に催されたテオ・アンゲロプロス映画祭のパンフレットがあったが売り切れていた。

ギリシャ各地をまわる旅芸人の一座の群像と、彼らを通して軍事政権下のギリシャを綴る。アンゲロプロスといえば長回し。1シーン1ショットが多い。時間を含めた4次元の構成力に秀でている。カメラはデモ行進する群衆を捉え、ゆっくりとパンして芸人一座との合流をおさめる。広場を映すシーンも360度回転しながら絶妙のポジショニングを見せてくれた。全てが計算しつくされている。3人以上の人間を撮るときの、それぞれの立ち位置も素晴らしい。客観的な視点が映える。

曇天のギリシャは陰鬱だ。戦争に虐げられ、暗く影を落とした民衆の生活を如実にあらわしている。10数人で形成する芸人一座それぞれの人間像を描くには、4時間弱という上映時間は適当だと認識した。各々の関係やヒューマニズムをしかと受け止めることができた。