77歳の森崎東監督最新作。鈴木清順は「オペレッタ狸御殿」を製作中だし、新藤兼人は御年90にして「ふくろう」でメガホンをとるし、さすが日本長寿の国である。衰えを知らず、失わぬバイタリティーは尊敬に値する。

外国人労働者が多く住む町・京都は舞鶴で、在日朝鮮人の母・澄子と潜水夫の父・守の間に生まれた障害児サムが、検事の収賄事件に巻き込まれて警察と暴力団に追われるはめとなる。子どもの教育方法をめぐって対立して別居した両親だが、我が子への愛情は変わらない。「菩薩さんはときどき人間に混じって、布袋さんのような欲のない笑ってばかりの、ちょっと知恵の薄いように見える人に化けて様子を探りに来る」という台詞がある。サムが通う養護学校の先生・直子が母親に言われた言葉だ。愛する子どものため、家族や直子は奔走する。さまざまなタブーに挑んだ作品である。第二次大戦後の表沙汰にされにくかった歴史を背景にして、根に基づいて練り込まれた構成だった。

森崎東巨匠だけあってキャストもすごい。石橋蓮司、柄本明、岸部一徳、李麗仙、笑福亭松之助、塩見三省が脇を固めるとはこれいかに。老練の演出力を見事に体現する。それでいてサムとその妹チャル、直子という主演には、全くの新人を起用する。とくに直子先生を演じた肘井美佳が体当たりだった。髪をつかまれてどつきまわされ、障害児たちの前では道化を振舞う。のまれていてはいたが善戦をしていたとのではないだろうか。ブレーキのきかない全力投球の彼女と加瀬亮との絡みは若い魅力があり、見応えがあった。