まず水面に浮かぶ庵。以前、予告を見たときにそれだけで劇場観賞を決めた。移り変わる四季の中で、庵は時に悠然と佇み、時に流れに身を任す。その四季を人間の成長に見立て、一人の業を負う男を追う。稀代のアーティスト、キム・キドク監督は諸行無常を説く。

庵の中、石仏と木魚が置かれているところの両脇に寝床がある。それを仕切る扉があるがそこに壁はない。夏、療養のために訪れた少女と青年期の僧が恋に落ちる。石仏の間を隔てて寝ていてもお互いの存在が確認でき、目を合わせる。青年僧は少女の布団へ忍びこもうとはじめは扉から出ようと試みるが、老僧に気づかれまいと扉を無視してその横から這っていく。欲により律を破る姿は他のシーンでも見られる。形式の扉が意味は知るところではない。庵を後にした若い僧は、秋、三十路を越え人を殺めて戻ってくる。自暴自棄になった彼は“閉”と書かれた紙片を目と口に張り、自殺を謀る。老僧はそれを戒め、床に書いた経文を彫らせる。

誰しもが持つ欲と罪が、東洋の雄大な景勝地で、さも全てが瑣末だと言わんばかり。登場人物もまた、さまざまな行為が芸術だ。自然のマクロな美しさと人間のミクロな美しさが見事なまでにシンクロナイズする。

もうキム・キドクのポテンシャルは僕には計れない。これほどまで荒々しくも美しい映像を他に知らない。学歴皆無、経歴無視の無類のアウトサイダーの、今後の更なる飛躍を予想して期待する。