フランス映画「クリクリのいた夏」は僕のベスト10に入る作品だ。その監督ジャン・ベッケルの新作を劇場まで。彼の父ジャック・ベッケルは「穴」「現金に手を出すな」の巨匠で戦中戦後のフランス映画界を担った。ジャンは戦争の記憶が鮮明に残っているようで、本作も「クリクリのいた夏」もその時代を背景にして回顧調で描いている。

教師のジャックは日曜日にピエロになる。息子のリュシアンは笑われる父親を好きになれずにいた。そんなリュシアンを見かねて、ジャックの親友アンドレは彼にジャックがピエロになったきっかけを話す。単純明快、気分爽快の後味すっきりな映画ながら、随所にフランスらしさが垣間見える。大戦中ドイツ占領下のフランスで、ジャックとアンドレを含む4人が人質・捕虜となる。死に直面してもなお、関係のない些細な事柄で言い争う4人。会話の妙を突くウィットなユーモアはフレンチらしさという趣だった。そして戦争批判も忘れない。4人の立場に同情した一人のドイツ兵が、他の兵士に気づかれないようにピエロを演じて、悲壮な彼らを笑いで勇気づける。「いつも心にユーモアを」。これは永遠のテーマだ。そのドイツ兵が上官に、4人に銃を突きつけるよう命じられたとき、彼は翻意して銃を置きピエロの赤い鼻を付けて上官を見る。そして彼は上官に殺された。多くの要素を詰め込んでいる。

監督ジャン・ベッケル×喜劇俳優ジャック・ヴィユレの「クリクリのいた夏」の牧歌、ジャック・ヴィユレ×ティエリー・レルミットの「奇人たちの晩餐会」のシチュエーションコメディーというお約束的なリードは要らないか、な。