一生のうちに何度も観る映画ってどのくらいありますか?
私はひとつの作品を2度、3度観るということは、実はほとんどありません。
それでも、自分のなかでベスト10に入る映画となると、時折、観たくなることがあります。
そのひとつが「コットンクラブ」です。
コットンクラブ [DVD]
大好きです。
ベスト5に入ります。
いっちょ何かやってやろうかと思っているときや、逆に自分の弱さを痛感しているとき、凹んだときなんかにも観ると、力が湧いてくる映画です。
コットンクラブ [DVD]
ウィリアム・ケネディ
1984年、フランシス・フォード・コッポラ総指揮によるアメリカ映画です。
出演はリチャード・ギア、ダイアン・レイン、そして、グレゴリー・ハインズ、ボブ・ホスキンス、ジェームズ・レマー、もちろん、ニコラス・ケイジ、ソフィア・コッポラといったコッポラファミリーも参加しています。
とにかくダイアン・レインが一番美しかったのがこの「コットンクラブ」かもしれません。
その瞳の奥にある、狂おしいばかりの愛情と割れそうなほどに薄い愛情を天秤にかける視線が、突き刺さってきます。
「リトル・ロマンス」のころから好きですが、やっぱり「コットンクラブ」のほうがいいかな。
リチャード・ギアもかなりいいです。
「愛と青春の旅だち」も「アメリカン・ジゴロ」も「プリティウーマン」もいいですが、やっぱり「コットンクラブ」のリチャード・ギア、少し、青臭さが残っていてしびれます。
リチャード・ギア(左)
57歳という若さで、2003年に他界したタップ界のスーパースター、グレゴリー・ハインズのタップ、これは見応えあります。
観ないわけにはいかないと思います。
グレゴリー・ハインズ
グレゴリー・ハインズ(右)
グレゴリー・ハインズといえば、ロシアからアメリカに亡命してアメリカン・バレエ・シアターを率いたミハイル・バリシニコフと共演した「ホワイトナイツ白夜」も見逃せません。
コットンクラブのオーナー、オウ二ー、当時のハーレムの帝王といえる役所からいったら、マーロン・ブランドが演(や)ってもおかしくないところですが、名優ボブ・ホスキンスが小気味よい痛快な演技をしています。
ボブ・ホスキンス
ジェームズ・レマー、悪そうな憎たらしそうな役やらせたら右に出る者はいません。
最高のギャングのボスです。
そして、実際のコットンクラブといえば、デューク・エリントン、キャブ・キャロウェイ、 ルイ・アームストロングといった、往年のジャズ界のスーパースターの顔が浮かぶ、最高のナイトクラブです。
そのサウンドを再現したのが、この「コットンクラブ」で音楽を担当しているジョン・バリーです。
サウンドトラックがこれまた秀逸です。
The Cotton Club: Original Motion Picture Soundtrack
John Barry
コットンクラブ / Cotton Club - Soundtrack 輸入盤 【CD】 |
なかでも、キャブ・キャロウェイの「ミニー・ザ・ムーチャー(コットンクラブ) 」が圧巻です。
「コットンクラブ」で演じているのはラリー・マーシャルです。
すべての男たちが最も男らしく、すべての女性が最も御女らしかった時代、この映画のテーマは「成り上がる」こと。
「用意された箱でトップに立つこと」ではありません。
用意された箱でトップを狙うのであれば「ブラック・スワン」でも書いたように、自分自身との戦いです。
「コットンクラブ」で描かれているのは、その次のステップです。
それは、権力や名声や金(かね)や時代までをも相手に戦い抜かなくてはいけないパワー、勇気を持っていなくては生きていけないということです。
男たちの振る舞いが、女たちの振る舞いが、ファッションを含めて真似したくなります。
そして、オウニーの引き際、なんて素敵な引き際なのでしょうか。
覚えておきたい生き方です。
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では「コットンクラブ」のストーリーに簡単に触れておきます。
舞台は1928年から1931年の禁酒法下のニューヨークです。
「コットンクラブ」は、マンハッタンはハーレムにある、黒人の踊りや歌を白人が楽しむための高級ナイトクラブです。
オーナーのオウニーは暗黒街の黒幕として、ギャングたちを牛耳っています。
コルネット奏者兼ピアニストのディキシー・ドワイヤー (リチャード・ギア)はライブハウスでコルネットを演奏しているときに、客席にいたギャングのボス、ダッチ・シュルツ(ジェームズ・レマー)に気に入られ、同じテーブルに呼ばれます。
その席でダッチが何者かに襲われるのを、ディキシーはとっさの判断で守ります。
居合わせた歌姫ヴェラ・シセロ(ダイアン・レイン)にひと目惚れして部屋に送りますが、ダッチの愛人を理由に手を出しません。
ディキシーは、ダッチにミュージシャンとしてではなく、煙草を買ってきたりあごで使われる部分が気に入らず、コットンクラブのオーナー、オウニーを訪ねます。
しかし、皮肉なことにコットンクラブの舞台に立てるのは黒人だけです。
そこで、オウニーはディキシーをハリウッドに送り込みます。
ディキシーは瞬く間にスター街道を駆け上ります。
出演したのは「暗黒街のボス」そして、ディキシーが演技の手本としたのが、これまた皮肉なことに、ダッチの振る舞いでした。
リチャード・ギア
ヴェラはブロード・ウェイにナイトクラブを持つ夢を実現するためにダッチの愛人のポジションをキープしながら、ディキシーとの恋を楽しみます。
もうひと組、黒人タップダンサー、サンドマン(グレゴリー・ハインズ)と白人と黒人の混血の歌手ライラ・ローズ・オリヴァー(ロネット・マッキー)の恋が進んでいきます。
お互いに自分自身のポジションをつくりあげること、自分が人気を博すために自分だけのことを考え自分の生き方を貫きながら、離れられない恋を成就させていきます。
そんなみんなの欲望が満ち満ちた全盛期、ダッチがギャングの抗争で殺されます。
このシーン、“踊る靴”と言われたサンドマンのタップダンスが、すべての終焉を見届けるかのごとく響き渡り、ものすごく切なさを感じさせます。
同時期にオウニーは仮釈放違反で刑務所に入ることになります。
オウニーはそれを引き際とし、刑務所から戻ったら、田舎で馬でも育てて暮らす夢を描きます。
そして、収監されるとき、「コットンクラブの慰問はいつかな?」と右腕のフレンチー・デマンジ(フレッド・グウィン)に笑顔で尋ねます。
「来週の水曜日に」とフレンチーが答えます。
ちょっと粋な会話です。
ダッチから解放されたヴェラはディキシーとともにハリウッドへ向かう列車に乗ります。
そうです。
ラストはすべてがハッピーエンドです。
これから野望を実現しようとする人たちや最終章を迎えた人たち、そのすべての兵(つわもの)どもが夢の跡までをも乗せて、古き良き時代から、新しい時代へ列車は走り出していきます。
これでいいんだと、思えるから不思議です。
巨匠フランシス・フォード・コッポラが描いた駄作ともいわれ、興行成績はふるいませんでしたが、それは、作品的な価値として「ゴッドファーザー」と比較されてしまうからかもしれません。
しかし、どして、この「コットンクラブ」も、もうひとつの禁酒法時代のニューヨークを描いたすばらしい作品です。
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