展転社から、国籍法改正案にて、日本大学教授百地章氏の書かれた論文、「問題だらけの国籍法改正」が送られてきたので、全文を転載。
非常に興味深い内容だ。ぜひご一読を!

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問題だらけの国籍法改正 ―慎重な上にも慎重に! 

■国籍法改正について

1、改正案の内容

 ・日本人男性が外国人女性の生んだ子供を「認知」するだけで、日本国籍の取得が可能に!

 ・改正案では、平成十五年一月一日まで遡って適用が可能に(附則第四条)

2、改正案提出の経緯 …今年六月の最高裁による国籍法違憲判決をきっかけに、密かに改正の動きが始まる!

・この事件は、不法滞在していたフィリッピン人女性が日本人男性との間に子供をもうけ、子供を原告として裁判を起こしたもの(「子供に日本国籍を」ということであったが、フィリッピンでは父母両系血統主義を採用しており、子供はフィリッピン国籍の取得が可能。原告の中には既にフィリッピン国籍の取得者もいた。しかも国籍法上、「簡易帰化」の道が開かれているにもかかわらず、原告らはあえてこの裁判を提訴)

・判決は、確たる根拠もないまま「家族関係の多様化」などを理由に、現行国籍法を違憲としてしまった

■なぜ問題か?

1、「国籍取得」とは、「政治的運命共同体としての国家」のフルメンバーとなることである。にもかかわらず、日本人男性による「認知」だけで簡単に「日本国籍」を与えてしまうのは安易にすぎ、危険である

 ①「国籍の重み」を無視した安易な改正は、「国家の尊厳」や「国の重み」が分っていない証拠ではないか

 ②「国籍の取得」は「人権」問題ではなく、「主権(統治権)」の問題である。つまり「国籍の付与」は国家による「主権の行使」であって、外国人に国籍を付与するかどうかは各国が自由に判断できる。それゆえ、外国人には「入国の自由」と同様、「日本国籍を取得する権利」など認められないから、「差別」問題など生じない 

 ③改正派は「子供のため」というが、実際には「子供を利用」した日本国籍の取得が横行する危険性がある 

      

■2、なぜ改正を急ぐのか? 

 ①一般論としていえば、最高裁で違憲判決が出た以上、国会は速やかに法改正を行うべきである

②しかし、判決自体にさまざまな問題点が含まれているような場合は、違憲判決が出たからといって、国会がやみくもに法律の改廃を行ってしまうのは疑問であり、慎重に審議すべきである!

・刑法二〇〇条の尊属殺規定についていえば、国民の多数が廃止に反対していたことから、違憲判決(昭和四八年)後、三十五年間も改正されず、平成七年、刑法の全面改正と共に削除された。また、衆参両院の議員定数については、最高裁で違憲判決が出ても、国会は中々、公選法を改正しようとしなかったではないのか?


■3、衆議院では、反対の声を無視して簡単に可決してしまったが、「良識の府」たる参議院においては、是非とも慎重審議を! 万一、改正が不可避であるとしても、せめて「見直し規定」を。さらに「偽装認知」つまり「認知の悪用」を防止するため、例えば「DNA鑑定の採用」や「父子関係を証明するに足る必要な書類の提出」を義務付ける等、厳格な手続きを採用すべきである!

①諸外国の現状 …牧原秀樹議員の報告では、すでにイギリス、イタリア、オーストリア、オランダ、スウェーデン、ドイツ等では、移民家族の受け入れの際、DNA鑑定を実施しているという(http://abirur.iza.ne.jp)  

②「DNA鑑定」採用慎重論について

・親子関係の確認のためDNA鑑定を持ち込むことについては、民法では行っていないことを理由に慎重論も存在するが、一方は「戸籍」の問題であるのに対して、本件は先に述べた「国籍」の問題であって、次元が全く異なる。つまり、本件における「認知」は民法上の認知と異なり「国籍取得の条件」とされており、直接「主権の行使」につながる。しかもわが国籍法は「血統主義」を採用しており、本件の場合のように、婚姻関係がなくても「認知」だけで国籍を付与してしまおうというのであれば、DNA鑑定の採用は決して怪しむべきことではなかろう。したがって「偽装認知」の横行が懸念される以上、「認知」のための手続きを厳格に定めることは、国益上、当然のことと思われる (日本大学教授 百地 章)