合コンでの移動中に渋谷の街を歩いていて、どこだか知らないが一件の木造平屋の建物を通った。

そこで私は、一匹の三毛猫と出会った。

いや、出会ったなどとは言うまい。せいぜい目が合った、くらいだ。
私はその存在を確認した程度でその場を立ち去ったが、猫は何故か私に付いて来た。
他に人はいくらでも周りにいるのに、何故か私に付いて来る猫。
猫好きとしては構ってやりたいが、仲間達は気付かず先に行くので私も無視して行こうとした。
しかし猫はいきなり、私の脚にズボンの上から爪を立ててしがみついてきた。逃がすまいとするかのように。
私はそっと払ったが、何度も執拗にしがみついてきた。あまりにしつこいので強引に引き剥がそうと手を出すと…、何といきなり噛みついてきた!
痛みに耐えかね乱暴に猫を突き放すが、猫は再び私の手に飛びかかり噛みつこうとする。
私は何でか着ていたマントでガードしながらも、猫はそのマントごと手に噛みついてくる。
その眼はもはや妖描のそれに等しかった。黒い瞳は縦に消えそうなほど細く伸び、黄色の眼球は怪しく光を反射する。
私はここに来てさすがに恐怖した。既に私を獲物として捕らえている狼のような獰猛さを見せるその猫に。
渋谷の街中で、こんな原始的な恐怖に遭遇しようとは。
仲間達は私の恐怖に気付かず、遥か先に行ってしまっていた。私も必死で叫ぼうとするが、声が出ない。
…数度の攻防の末、私は反撃に出た。私の右手に噛み付き牙を食い込ませた猫を、そのまま勢い良くアスファルトの地面に叩き付けたのだ。
猫は眼も、口も開いたまま、舌を力無く出し、唾液と血液を流して、その場に倒れた。死んでなどいない、痛みに気絶し、痙攣を起こしているだけだ。
だがその様は、私には朽ち果てた化け猫がなお私を狙いこちらを見ているようにしか見えず、全力でその場から逃げ出させた。
走り、走り、見えなくなりそうになっていた仲間の元へと…。
巨大なスクランブル交差点、私は仲間に追い付いた。
もう安心だ…、逃げ切った。ここまで来れば、見つかるまい。そう安堵し、乱れた呼吸を整えながら、振り返った。

…喧騒の中から、異質な音がした。
高速で、爪を立て、地面を掻く足の音。
交差点の向こうから、一直線に駆けてくる。それは誰にも邪魔されず、私の前を通り過ぎ……、

止まった。

私は振り返り、再びそれと目を合わす。

血みどろの…猫の微笑みと。




…という夢を見た(怖)