『子どもの貧困』阿部彩 | ほたるいかの書きつけ

『子どもの貧困』阿部彩

 某掲示板での某A氏との議論で消耗してはいるのですが、たまには栄養になる本を読まないと続かなくなるので。

 この本、まだ読み途中なのだが、あまりにも衝撃が大きかったので、そこだけ紹介する。
 内容はタイトルの通り子どもの貧困についてである。子どもがいる世帯の貧困、と言ってもいいだろう。

 冒頭、子ども時代の貧困が、後の人生にどう影響するかの調査結果の紹介がある。子ども時代の貧困は、その語一生にわたって不利になる、ということだ。これはあくまでも統計的な調査であって、貧困を乗り越えて立派な人生を歩んだ人はもちろん大勢いたのだろう。しかし、学歴やら収入やら健康やらで明らかに子ども時代に貧困であった人々は不利であるということが示される。親の因果が子に報い…ではないが、本人の責任ではない、子ども時代の貧困が、その後一生にわかってつきまとうのである。

 貧困とはなにか。絶対的貧困と相対的貧困の概念が示される。本書が取り上げるのは、相対的貧困である。これは先進国では標準的な指標だそうで、収入の中央値の半分が貧困ラインとなる(40%や60%の場合もあるそうだ)。日本の場合、1人世帯で年収127万円、2人世帯(母子世帯など)で180万円、4人世帯で254万円。これは複雑な計算によって与えられる生活保護基準とよく一致している。もっとも生活保護受給のためにはあまりにも高いハードルが課せられ、基準を満たしている(下回る収入しか得ていない)場合でも、受給している世帯はほんの一握りなのだが。
 日本の子どもの貧困率は、2004年のデータでは14.7%。7人に1人が貧困、ということだ。
 他国ではどうだろうか。アメリカは20%超で突出している。日本はイギリス、カナダ、オーストラリアと似ていて15%前後。ドイツやフランス、台湾などはやや低くて10%弱。北欧諸国は5%弱。日本は高めだ。

 この高い数値が本当に意味のある数値なのかがあらゆる角度からの分析で示される。これは読み応えがある。

 さて。
 私が衝撃を受けたのは、次に示すグラフである。
 どの国でも、貧困対策はやっているだろう。貧困はともかく、格差対策はしているはずである。累進課税はもちろん、様々な再分配策が取られている。生活保護や児童手当もそうだ。では、これら再分配策は、国によってどれくらいの効果を上げているのだろう。
 以下は、国ごとの、再分配前(就労や金融資産によって得られる所得)と再分配後(税金と社会保険料を引き、社会保障給付を足した可処分所得)での子どもの貧困率を示したものである。

ほたるいかの書きつけ-子どもの貧困率
これらの国の中で、日本は唯一、再分配後の方が貧困率が高くなっているのだ。
 再分配前の貧困率は、これらの国の中ではむしろ低い方だ。しかし、他国は、当然のことながら、政府の施策により、貧困を減らすことに成功している。アメリカですら、僅かながら貧困率を減らしている。フランスなどは再分配前の貧困率がトップクラスであるにもかかわらず、再分配によって劇的に貧困率を減らしている。それに引きかえ、我が日本のなんと情けないことよ。庶民から収奪し貧困を拡大しているのだ。

 昨今の急激な雇用情勢の悪化のため、おそらく子どもの貧困率はますます上昇するだろう。特に母子・父子世帯を直撃することになる。なお、母子世帯における親の就労率は、他国と比べて日本はかなり高いそうだ。しかも、子どもと接する時間も短い。これはつまり、他国では母子世帯への援助がきちんと行われているのが、日本の場合はロクな補助がなく、親は倒れる寸前まで必死に働いているということを意味する。政府がなんとかしないといけないことが、この日本では当然のように行われていないのだ。


 この本、全編にわたって(ってまだ全部読んでないけど)衝撃の連続である。なんの罪もない子どもが犠牲になっている。そしてその影響は今後数十年にわたって続く。いまなんとかしなければ、10年後、20年後の日本社会はかなりとんでもないことになると予想される。単に子どものためというだけでなく、社会の維持・発展のためにも、緊急の対策が必要だろう。
 とにかくスゴい本なので、おすすめ。多くの人に読んでほしいと思う。
子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)/阿部 彩
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