『異次元は存在する』リサ・ランドール、若田光一 | ほたるいかの書きつけ

『異次元は存在する』リサ・ランドール、若田光一

 トンデモ本ではない。タイトルがアレだが、れっきとした科学の本である。ただ、ここで紹介するのは、もちろんトンデモさんが彼女の業績を都合よく引用するから、ここらでちょっとマトモな記事をあげた方がいいかと思ったからだ。まあ不純と言えば不純な動機で読んだわけである。

 先に、簡単にここで言っている「異次元」とはどういうことかを述べておこう。
 この世界の空間は、縦・横・高さの三つの次元から成り立っている。いわゆる3次元の世界である。運動を記述するには、さらに「時間」という軸が必要になる。そこで、空間を記述する三つの次元に時間軸を合わせ、この世界は4次元時空だということになる。
 ところで、なぜこの世界が4次元時空なのか、ということは、よくわかっていない。我々は明らかに4次元時空に住んでいると思っているが、一方で、「超ひも理論」や「M理論」のような素粒子理論によると、この世界は10次元や11次元が必要ということになっている(まだ仮説の段階だけど)。では、残りの6ないし7次元分(これを余剰次元と呼ぶ)はどうなってしまったのか?
 通常は、小さく「まるまっている」と考える。よく出る例え(この本でも出てくる)は、電線だ。電線はすぐ近くで見ると太さを持つ3次元物体だが、遠くから見ると、まるでただの線、つまり1次元の物体のように見える。素粒子の世界も、本当は5以上の次元を持つのだが、我々の日常スケールに対して余剰次元方向はとても小さく、まるで遠くから電線を見るように小さくまるまっていて感知できない、とするわけだ。

 さて、この宇宙はマクロには通常一般相対性理論に基づいて記述される。一般相対性理論は重力についての理論で、まあニュートンの万有引力をより一般化したものと言っていいだろう。我々はこの宇宙は4次元時空だと思っているので、当然一般相対性理論も4次元時空の場合について詳しくしらべられてきた。

 この二つの流れは別個のものなのだが、しかしもしこの世界が本当に余剰次元を含むのだとすると、一般相対性理論も4次元時空の場合だけではなく、高次元時空の場合にどうなっているかを調べておく必要がある。
 リサ・ランドール(とその共同研究者)は、もっとも簡単な場合として、余剰次元が一つだけ、つまり空間1次元が増えた5次元時空の場合を考えた。で、その5次元目が強くゆがんでいたとすると、必ずしもミクロに丸まっている必要はないこと、さらに物質は3次元空間にしか存在できず、5次元目にしみ出すことが不可能だとしたら、この宇宙を結構うまく説明できることを発見した。
 というわけで、この5次元目を、「異次元」と呼んでいるわけだ。
 ちなみにこういう世界を「ブレーン(膜)ワールド」と呼ぶ。なんで膜かは本を読んでください。ってまあイメージしやすいように通常世界を2次元空間にして、全体で4次元時空にすれば、我々の宇宙は3次元空間に浮かぶ2次元の膜のように描けるから、ってことなんだけど。

 もちろん、まだ余剰次元一つだけだから、現在考えられている素粒子理論とはまだまだ開きがあり、彼女のモデルでOKというわけでは全然ない。しかし、こういう考え方が画期的だったのも事実で、もしかしたら、今後の理論の行く末を考えるうえで、大きな事件だったのかもしれない(少なくとも多くの人が影響はされているわけだし)。

 これを踏まえたうえで。

 本の中身の紹介はちょっとだけにする(すいません)。本の体裁は、宇宙飛行士・若田光一によるリサ・ランドールへのインタビューである。宇宙論の素人がいまをときめく科学者にインタビューするわけだから、難解ではないし、また子どもの頃のエピソードなども盛り込まれていて親しみもわくだろう。
 どういう話が展開されるかは読んでください。全然紹介になってないやん!というツッコミはなしの方向で。薄い本だから読んでください。m(_ _)m
 薄い本なので、深くはわかりません。深く知りたい方は、『ワープする宇宙』(リサ・ランドール)を読むといいと思います。私はまだ読んでないですが、パラパラと眺めた限りでは、かなりわかりやすく書いてあるようです。ハードカバーで600ページ以上あるけど。

 で。
 このエントリの本題は、最初に書いたように、リサ・ランドールの理論はトンデモさんが自説を援用できるようなものなのか、ということだ。たとえば江本勝や船井幸雄、ジュセリーノをはじめとして、現在、「アセンション」が一つのブームになっている。2012年に次元上昇が起こり、3次元から5次元へ移行する、ってやつだ。リサ・ランドールが5次元を証明したらしいし、ちょうどいいね、って江本らが引用するのだけれど、上でリサ・ランドールが言うところの5次元について説明したように、これはまったく次元上昇をサポートするような理論ではない。
 ついでに言えば、次元上昇は3次元空間から5次元空間への移行で、4次元をすっとばすのだけれども、リサ・ランドールが言っているのは5次元時空の話で、空間的には4次元である。しかも余剰次元である5次元目の方向には、どうあがいても物質は行けないのだ。たとえ2012年を迎えたとしても(重力だけが伝わる)。
 ましてや霊だの魂だのの世界とはまったく一切関係がない。高級霊が5次元にいるとかそういう話でもない。

 そういうわけで、アセンションやら次元上昇やらの文脈でリサ・ランドールの話が出てきたら、それは彼女の業績をまったく理解していないか故意に捻じ曲げて己に都合の良いように引用しているかのどちらかであると断じて良い。異次元―5次元目のことだが―には重力しか伝わらないのである。

 あ、船井幸雄は意識だかなんだかの「波動」は「重力波」だなんてトンチンカンなことを言ってますが、それも明確に間違いなので、誤解なきよう。船井言うところの「波動」が5次元方向に伝わることはありません。てかそもそもそんな波動ないし。

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