江本流「波動」理論(2) | ほたるいかの書きつけ

江本流「波動」理論(2)

 話は少し飛ぶが、「水伝3」のp.144、「II. 祈りや言葉は水と結晶を変化させる 4つのケーススタディー」の「スタディ3 琵琶湖での祈りの実験」を取り上げたい。

 江本らは、1999年7月25日に行った「琵琶湖浄化実験」をあちこちで宣伝している。どんなものかというと、その日の朝4時半、350人が集まり、ある言葉を10回唱えたのだという。
 1999年7月25日を選んだのは、「古代マヤのカレンダーに則ってのこと」だという。アセンションとかもマヤの暦でしたっけ?それはともかく、次に掲げる「ある言葉」を見ると、「なんでまたこの言葉がマヤの暦と関係するのだ?」と思わざるを得ない。その言葉とは、
「宇宙の無限の力が凝(こ)り凝(こ)って 真(まこと)の大和(だいわ)のみ世が生(な)り成(な)った」
である。これは、
 当時97歳になられた、医学博士でありタオイストである塩谷信男先生が開発された大断言です。
 ご高齢にもかかわらず駆けつけてくれた塩谷先生の音頭で、わたしたちは10回この大断言を繰り返しました。
 この言葉、願いは、間違いなく宇宙に届いたのです。まずは、京都新聞同年8月27日の記事をごらんください。この記事を要約すると次のように書いてありました。
ということで、塩谷信男が開発した言葉だそうだ。マヤとどういう関係なのだろう。
 さて、京都新聞の記事とは、江本の要約によると、次のようなものである。例年この時期には外国産の藻(コカナダモ?)が異常発生し、在来の国内産の藻が死滅し、悪臭が発生し苦情が絶えないという。しかし、この年は悪臭が発生せず、苦情もない。しかし、原因は不明である。というような記事だそうだ(原文にあたっていないので、この要約が正しいかどうかは不明)。つまり、この言葉を唱えたことで、琵琶湖が浄化された、というのだ。
 しかし、悪臭についてはともかく、この年だけ琵琶湖の水質が特に改善したということはないようである。例えば、財団法人琵琶湖・淀川水質保全機構 のウェブページを見れば一目瞭然だ。劇的に改善などしていないのである。
 結局、よくある「予言」と似たようなもので、とりあえずどういう効果が出るかは明示せず、祈りをささげる、後日、改善につながるような記事が出れば、それを成果をして大々的に取り上げる、という手法なのであろう。悪臭ではなく別の点でなんらかの改善があれば、それを成果として取り上げていたはずである。
 また、彼らはこの1年しか「実験」はしていないようである。それならば、年によって偶然が重なり、その時だけ起こる様々な現象があるだろう。だから、これだけでは江本らの「実験」が効果があったとは到底言えないはずなのだ。
 さらに言えば、元から外来藻の駆除などは試みがいろいろされているようで、例えば水位を下げるなどして在来藻を優勢にするなどの試みはそれ以前からなされているようだ。

 ちなみに江本はこの記事を見て興奮し、塩谷に報告に行ったそうである。ところが塩谷は平然として、
 「当然の結果じゃ。宇宙には無限の宇宙エネルギーというものがあって、そこに届くように、みなで大断言をいった。そうしたら琵琶湖のあたりに、あのとき真の大和の場ができた。だから藻たちも仲良く共存したんじゃよ」
と言ったらしい。なんというか、妄想の場ができてる、とでも言ったらいいのか…。

 ところが、江本は8ヵ月後のある記事を読んで、「わたしなりにすべてを理解した」のだそうである。その記事とは、ダイオキシンやPCBの分解方法に関する技術が開発されたというものだ。大阪府立大の前田教授らは、20万Hzの超音波を水に流し、湖沼のダイオキシンやPCBを分解することに成功した、というものだそうである。
 どういう技術か私にはよくわからないのだが、ざっと検索して調べたところ、どうも
  • 超音波により、細かい気泡が発生する(音波なので水中を疎密波が伝わり、疎なところ、つまり低圧のところで気泡が発生する)
  • ダイオキシンやPCBは疎水性であり、気泡にキャプチャーされる傾向がある
  • 音波によって密なところ(高圧部分)が気泡を通過すると、断熱圧縮により、気泡が崩壊する(押し潰される)
  • この際、断熱圧縮なので、局所的に高温・高圧の部分ができ、数千度にも達する
  • ダイオキシンなどは気泡部分に局在しており、加熱されるため、分解される
ということのようだ。おそらく水蒸気から凝結して液体の水に戻るタイムスケールより、20万Hzで急激に圧縮されるタイムスケールの方がずっと短く、出来たバブルが溶解する時間もなく断熱的に押し潰されるということなのだろう(数値をあたっていないので、私の予想ですが。またダイオキシン等が分解されるタイムスケールは短いことが必要)。またそうだとすると高温になるのは非常に狭い領域だけになるはずなので、水全体に対してはたいしたエネルギーにはならず、全体が顕著に加熱されるということもないのであろう(それは当然で、入れた超音波のエネルギー以上に加熱されることはあり得ない。エナジェティクスから自明である。あくまでごくごく狭い領域で、ごくごく小さい質量の物体だけが加熱されるため、それだけが高温になる、ということのはずだ)。もっとも衝撃波が発生して云々ということを書いてあるサイトもあったので、気泡の崩壊により水の波面同士がぶつかり衝撃波を発生し、衝撃波加熱によって高温になるのかも、とも思ったが、そのあたりの詳細は不明である。「キャビテーション現象」というのがキーワードのようであるが(間違っていたらすみません。詳しい方がいらっしゃいましたらご教示いただけると幸いです)。

 で、こういう物理メカニズムの話とは関係なく、江本の妄想は炸裂する。
 わたしの理解とは次のようなものです。
 わたしたちが発した声は、おそらく300Hz程度の振動であったろうと思います。しかし、それは非常に純粋でした。なぜなら参加した全員が塩谷信男先生を敬愛していたからです。しかも明け方の4時半です。環境的にも干渉波動はなく、その振動は言霊(ことだま)に導かれて宇宙のエネルギー帯に向けてまっしぐらに飛んでいったのでしょう。そして、600Hz, 1,200Hz, 2,400Hz, 4,800Hz, 9,600Hz, 19,200Hz, 38,400Hz, 76,800Hz, 153,600Hz のそれぞれの波長帯とオクターブの理論により、「共鳴」と「エコー現象」を繰り返しながら、最終的にダイオキシンやPCBを分解してしまう周波数帯と共鳴して、それを琵琶湖の水に呼び込み、大阪府大の実験と同じ現象を招いたのではないか、と考えたのです。
 以上の考察は言霊という、どちらかといえば宗教的な現象を、「振動の原則」という科学的な尺度によってはじめて解説したものとして、将来的に認められるのではないかとわたしは自負しています。
というわけで、「科学的な尺度によって解説したという妄想を盛大に展開した」という意味で今すぐに認めたいと私は思う。
 ま、そういう皮肉はともかく、「純粋ってどういうことやねん」とか、「宇宙のエネルギー帯ってなんやねん」とか、なんでそんな強烈な倍音成分が出てくんねん、とか、思い込みによる断定のオンパレードである。こんなものを真面目な実験と同列に見られて、大阪府大の人は怒ってもいいんじゃないかと思う。

 いずれにしても、(いつものことではあるが)「勝手に理解すんなよ」と声を大にして言いたい。


(補足)
 水蒸気の断熱圧縮でどれくらい温度が上昇するか考えてみる。
 断熱圧縮による温度上昇は、温度をT, 体積をVとすると、T∝V-γ+1である。ここでγは比熱比で、水蒸気の場合、対称性が低いので、回転の自由度が3(ですよね?)、並進運動の自由度が3で、γ=(6/2+1)/(6/2)=4/3となるはず。ここで分子の振動モードは比較的低温のため無視する。
 ただし、どうも振動準位も103[K]程度で励起されるようであり(定量的には私は詳細は知らないのですが)、そうすると水分子は非直線3原子分子なので振動モードが3つ増え、比熱比はγ=11/9になるはず。
 さて、バブルの半径をrとすると、V∝r3なので、T∝r3(1-γ)∝1/rとなり、半径に逆比例して温度が上昇することになる。もし高温になって振動準位が励起されると、T∝1/r2/3となり、3桁半径が落ちると2桁の温度上昇になる。
 超音波により発生するバブルのサイズはμmのオーダーのようなので、水分子程度の大きさ(0.1nm程度)が縮むミニマムであろうから、サイズは4桁程度小さくなりうる(実際はそこまで縮めないだろう。直感的には頑張っても2~3桁がせいぜい)。計算しやすいのでここでは3桁縮むとする。
 すると、振動が励起されなければ温度は3桁上昇し、室温を300[K]とすれば3x105[K]、振動が励起されれば(簡単のためいつでも励起されているとすると)2桁上昇し3x104[K]程度になりそうである。
 キャビテーション現象についてネット上の情報を漁ってみると、バブル崩壊の際には数千度になるというのが散見されるので、実際には生成されるバブルのサイズがもう少し小さいか、1桁程度しかサイズが縮まらないか、というのが現実的なところか。

 しかしネット上の情報でこれくらいは調べられるというのは便利なものですね。

(補足その2)
 流速がどれくらいになるとバブルが生成されるのか考えてみる。
 ベルヌイの定理から、流速0のときの水圧をp0, 流速vのときの水圧をpとすると、p0=p+ρv2となる(ρは水の密度、ρ=103kg/m3)。水面からあまり潜らないところでは、p0は大体103hPaなので、流れがあることにより p=p0(1-ρv2/p0)となる。つまり、圧力が0になるのは、v=(p0/ρ)1/2=(103hPa/103kg/m3)1/2=10m/s程度、つまりスクリューなどがこれぐらいで回転すると、バブルが発生することになる。水圧が10倍になれば、バブル発生に必要な速度は√10倍、となる。
 実際には有限温度では飽和水蒸気圧は0ではないので、もう少し遅くてもバブルは発生するだろうが、その効果は無視できるだろう。
 あ、この考察は、超音波とは無関係です。水中のスクリューから発生する気泡ってのはなんなんだ、とちょっと疑問に思ったので、考えてみました。