「水からの伝言」はどうやって作られているのか(2)
前回は「水伝2」の巻末記事を引用して考察したが、今回は「水伝3」の記事から引用する。p.159-160の記事。
写真1は並んだシャーレにスポイトで滴下している写真、写真2は顕微鏡の写真、写真3はシャーレ中央で凍って中心部が盛り上がった滴下された水の写真(凍らせると、しずくの中心部が尖るように盛り上がる)、写真4はそれを顕微鏡にセットしている写真である。
というわけで、読めばわかるように、
なお、中谷ダイアグラムによれば、水蒸気量が豊富であれば、-15℃当たりで樹枝状の結晶ができる。つまり、-25℃の氷を-5℃の部屋にもってくれば、氷周辺ではわずかな時間の間だけだろうけれどもちょうど-15℃付近にいる時間があり、その間に樹枝状の結晶が成長するということなのだろう。気相成長と思われるので空気中の水蒸気が材料として必要であるが、おそらく撮影者の息が水蒸気の供給源ではないかと思われる。よって、結晶になっているのは、文字や写真を見せた水分子ではなくて、まったく無関係な、撮影部屋に漂う水分子、さらに言えばおそらくは撮影者の息に含まれる水分子であろう(このあたりはきくちさんやkikulog周辺で、だいぶ以前に相当議論されているので、詳細はそちらを参照されたい)。
いちおう機材についても書かれてあるので、引用しておく。とくに妙なものはない。
次に、「タイ スカトー寺の水の結晶」の観察結果を引用する。
この結果に対し、
前回書いたように、「水伝2」では一番多く現れたカテゴリー、この場合ならば3つとも「不定形」であるが、から本文に載せた結晶写真を選んでいたはずである。今回の「水伝3」にはそのようなことは書いていないのでわからないが、判断材料としては、ごく少数のサンプルしか得られなかった美結晶や美傾斜の数も考慮されるようである。点数で重みをつければ、これらが効いてくるのはそうなのだろうが。
ところで上の表および前回示した結果から、誰か美傾斜などのカテゴリ別の配点を推測してみませんか?カテゴリーは8つ、配点のわかっているものが2つ(美結晶100点、無し0点)、サンプルが4つ、で連立方程式をたてると、式4本に未知数8、拘束条件2で8-4-2=2>0なので複数の解が出るだろうけれども、おそらく10点刻みなどのようになっていると思われるので、解が求まるのでは、と思う。
さて上記の結果から「場が持つエネルギーの違い」を判別できると言っているのだが、統計を知っていれば、そんなことは言えないと言うのはすぐにわかるはず。単純にポアソンエラーをつけてやると、どれも誤差の範囲で区別がつかなくなる。なので、この結果からは、どれが良いなどという結論はでないはずだ。
というわけで、「水伝3」の検討からも、彼らの結論は統計誤差を考慮しない恣意的なものであると言ってよいのではないか、という結論が導かれる。また結晶になっているもの自体が見せた文字や写真、聞かせた音楽とは無関係のものである可能性が高いと思われる。
以上が「水伝3」に書かれている結晶写真の撮影方法である。次回、もう一度「水伝2」に戻り、この木津氏が書いている文章について検討したいと思う。
結晶撮影の現場からこの方は実際に結晶写真の撮影を行っている方のようで、「水伝2」でも「撮影の現場から」ということで記事を書いている(「水伝2」p.137-138)。そちらでは、「主任研究員」の肩書きがついている。
IHM総合研究所 木津孝誠
写真集に登場する結晶映像は、以下のような手順で撮影を行っています。ここでは72~75ページにあるスカトー寺での3つのサンプル観察の実験を例に、結晶観察の全体と、それぞれのサンプルから得られる結晶パターンの傾向性の違いについて説明します。これは「72~75」ではなく、「70~73」の間違いと思われる。p.70には「タイ スカトー寺 3つの甕の雨水」と題し、「村人の甕の雨水」が載っている(おそらく寺の僧侶と子どもたちが水を汲んでいる写真が1枚と、結晶の写真が3枚)。p.71では「森の中の甕の雨水」として、森の中にある甕の写真と、結晶の写真が4枚。p.72では「スカトー寺の甕の雨水」として寺にあると思われる甕の写真が、そしてp.73には結晶の写真が6枚載っている。なおp.74には「『象』の写真を見せた水の結晶」ということで、象の写真の上にビンを置いている写真が、p.75にはその結晶の写真が1枚づつ載っている。
検体(水)を凍らせる際の手順
① 1サンプルあたり50枚のプラスチック製のシャーレに水をスポイトで0.5ccずつ滴下します(写真1)。
② シャーレに蓋をしてフリーザーに納めます。
③ フリーザーは最低冷却温度がマイナス25℃まで下がるもので、3時間かけてサンプルを氷結させます。
結晶撮影の手順
① 氷結したサンプルを観察する場所は大型冷蔵庫(1坪程度)で、室内はマイナス5℃に設定してあります。
② 観察用顕微鏡は「金属光学顕微鏡(カメラ装置付き)」(写真2)です。
冷蔵庫から1つずつシャーレに載った氷結サンプルを取り出し、顕微鏡の上にセットします。
③ 氷結したサンプルは隆起しており(写真3)、その頂点に顕微鏡から落射される光を当てます(写真4)。
④ 接眼レンズを覗いて結晶を観察し、顕微鏡に設置されたカメラで撮影します。
写真1は並んだシャーレにスポイトで滴下している写真、写真2は顕微鏡の写真、写真3はシャーレ中央で凍って中心部が盛り上がった滴下された水の写真(凍らせると、しずくの中心部が尖るように盛り上がる)、写真4はそれを顕微鏡にセットしている写真である。
というわけで、読めばわかるように、
- サンプルは文字や写真を見せた水それぞれに対して50個
- スポイトで0.5ccずつ小分けにして-25℃で凍らせる(決して音楽を聞かせながら、とか、文字を見せながら、ではない)
- 凍らせたサンプルは、-5℃の部屋で観察、その際サンプルに光を当てる
なお、中谷ダイアグラムによれば、水蒸気量が豊富であれば、-15℃当たりで樹枝状の結晶ができる。つまり、-25℃の氷を-5℃の部屋にもってくれば、氷周辺ではわずかな時間の間だけだろうけれどもちょうど-15℃付近にいる時間があり、その間に樹枝状の結晶が成長するということなのだろう。気相成長と思われるので空気中の水蒸気が材料として必要であるが、おそらく撮影者の息が水蒸気の供給源ではないかと思われる。よって、結晶になっているのは、文字や写真を見せた水分子ではなくて、まったく無関係な、撮影部屋に漂う水分子、さらに言えばおそらくは撮影者の息に含まれる水分子であろう(このあたりはきくちさんやkikulog周辺で、だいぶ以前に相当議論されているので、詳細はそちらを参照されたい)。
いちおう機材についても書かれてあるので、引用しておく。とくに妙なものはない。
結晶写真撮影使用機材だそうである。
フィルム
- OLYMPUS製 システム金属光学顕微鏡 BX60
- OLYMPUS製 全自動顕微鏡写真撮影装置 PM10SP
- FUJICOLOR 業務用カラーフィルム ISO400
観察基準ということだが、前回も書いたように、どういうものが美結晶で、どういうものが美傾斜なのか、それがさっぱりわからない。また美結晶と結晶無しは100点と0点ということであるが、その中間のカテゴリーが何点なのかもわからない。さらに、「水伝2」では「江本会長が」選んだということになっていたが、こちらでは「観察者」ということになっている。ただし、木津氏が観察者なのかどうかはわからない。おそらく、木津氏は「撮影者」という立場であり、出来た写真を江本が「観察」するのではないかと予想される。が、正確なところはこの文章だけからはわからない。
結晶はその形状によっていくつかのタイプ(美結晶、美傾斜、6角形、放射状、格子状、不定形、陥没、無し)に分類しています。
結晶形状のタイプによって0点から100点までの点数をつけます。形状分類ごとにその点数と観察された氷結サンプル数の積数を算出します。その総合点数の50氷結検体平均が結晶評価点数となります。
点数の基準となるのは、結晶形状が6角形であるかどうかに加えて、美しいかどうかであり、その判断は観察者が行います(例:6角形で美しい結晶=100点、結晶無し=0点)。
この算出方法は、観察者による評価点数のばらつきはあるものの、サンプル水の結晶状態の傾向は得ることが出来ます。
次に、「タイ スカトー寺の水の結晶」の観察結果を引用する。
試料 | 美結晶 | 美傾斜 | 6角形 | 放射状 | 格子 | 不定形 | 陥没 | 無し | 評価点数 |
A 村人の家の甕の雨水 | 1 | 3 | 1 | 0 | 3 | 41 | 1 | 0 | 28.8 |
B 森の中の甕の雨水 | 1 | 7 | 1 | 0 | 1 | 38 | 2 | 0 | 38.2 |
C 寺の甕の雨水 | 3 | 6 | 3 | 0 | 2 | 36 | 0 | 0 | 41.8 |
この結果に対し、
3つの甕の雨水の結晶観察全体をあらわす表、およびグラフからもわかるように、美しい結晶が多ければ多いほど評価点数は高くなります。また観察された「美結晶」並びに「美傾斜」の結晶パターンの数の違いだけを見ても、村にあった甕の雨水よりも、寺や森にあった甕の水の方が美しい結晶が観察される確率は高いといえます。よってそこから、場が持つエネルギーの違いを結晶観察によって推測することが可能といえます。としめくくっている。なお、上の表をグラフにしたものも載っていて、それが上記引用文中の「グラフ」である。
前回書いたように、「水伝2」では一番多く現れたカテゴリー、この場合ならば3つとも「不定形」であるが、から本文に載せた結晶写真を選んでいたはずである。今回の「水伝3」にはそのようなことは書いていないのでわからないが、判断材料としては、ごく少数のサンプルしか得られなかった美結晶や美傾斜の数も考慮されるようである。点数で重みをつければ、これらが効いてくるのはそうなのだろうが。
ところで上の表および前回示した結果から、誰か美傾斜などのカテゴリ別の配点を推測してみませんか?カテゴリーは8つ、配点のわかっているものが2つ(美結晶100点、無し0点)、サンプルが4つ、で連立方程式をたてると、式4本に未知数8、拘束条件2で8-4-2=2>0なので複数の解が出るだろうけれども、おそらく10点刻みなどのようになっていると思われるので、解が求まるのでは、と思う。
さて上記の結果から「場が持つエネルギーの違い」を判別できると言っているのだが、統計を知っていれば、そんなことは言えないと言うのはすぐにわかるはず。単純にポアソンエラーをつけてやると、どれも誤差の範囲で区別がつかなくなる。なので、この結果からは、どれが良いなどという結論はでないはずだ。
というわけで、「水伝3」の検討からも、彼らの結論は統計誤差を考慮しない恣意的なものであると言ってよいのではないか、という結論が導かれる。また結晶になっているもの自体が見せた文字や写真、聞かせた音楽とは無関係のものである可能性が高いと思われる。
以上が「水伝3」に書かれている結晶写真の撮影方法である。次回、もう一度「水伝2」に戻り、この木津氏が書いている文章について検討したいと思う。