ベンチャー、中小礼賛の記事にモノ申す | 外資系ITビジネスマンの視点

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時々雑誌やWebで、ベンチャー企業や中小企業の良さを訴える人達が、大企業に入社するデメリットを声高に叫んでいるのを目にします。

だいたい彼らの論調にはパターンがあります。

「大企業に入社しても安定した生活が保障されるとは限らない」

「ソニーやシャープを見ろ、大企業でも赤字に苦しんでいる企業はある、大手だから安泰という時代は終わりだ。いつリストラされるかも分からない」

といったように、まずは大企業のメリットである、「安定性」を疑問視する所から入る。

そして、「仕事も細分化されていて、権限も中々持たされないから成長スピードが遅い」

というように、「成長」に対する疑問を投げかけていく。

一通り、大企業叩きが終わった後は、ベンチャー企業や中小企業のメリットを訴求していきます。

「一人一人の裁量が大きく、責任ある仕事を任せられるから成長スピードが速い」

「意思決定のスピードが早く、変化に対応出来るようになる」

このように、大企業よりも「責任」が大きく、より「成長」出来る環境があると説きます。

ふむふむ、彼らの言うことは一見もっともらしくて筋が通っているように見えますが、一つ一つ文章を検証していくと、疑問符がつく所が多い。

まず大企業の安定性について。

確かに、一昔前の高度成長時代と比較すると、大企業=100%安定とは言い切れなくなっていますが、それでも中小企業やベンチャー企業のそれと比較すれば、よほど安定性が高いのは言うまでもありません。

実際に企業規模別の倒産状況を見てみると、中小企業の倒産が全体のほぼ100%を占めています。

一部の業績の悪い企業を引き合いに出し、大企業も不安定だ!と叫ぶのはナンセンスです。

これは学歴と所得に関する議論に似ていて、高学歴にもかかわらず低所得な人達を集めて、「高学歴だからとって成功出来る時代は終わった!学歴なんて関係ない」と主張する記事を見かけることがあります。

しかし、学歴の高さと所得の高さには統計的に相関関係があるのが事実です。

確立の少ないことを取り上げて、それが全体の傾向のように叫ぶ論調はちまたで溢れているので、注意しなければダメですね。

全体の傾向としては、大企業が中小企業よりも安定していることは間違いありません。

次に、ベンチャーや中小企業で働くメリットとして取り上げられる「成長」について。

確かにベンチャーや中小企業では、少ない人員で業務を回しているため、幅広い仕事を一人でやらなければならないという事実はあります。

その過程で、大企業の仕事と比べて、幅広い仕事を自分でやらなければならないということはあるでしょう。

しかし、「責任」、「権限の大きさ」、「仕事の質」についてはどうか。

これは少し想像すれば分かることですが、大企業だから中小企業だからとかで、これらのことを一概に判断出来る物ではありません。

大企業が人がたくさんいるからと言って「責任」や「権限」が少ないかと言えばそのようなことはありません。

若いうちから、お客様の役員クラス相手に対応を求められたり、数字を課されて成果のプレッシャーにさらされることは当然あります。

大企業が全ての若手社員を甘やかせるかと言うとそんなことは無く、むしろ厳しい上下関係の元、一から性根を叩き直される機会が与えられることもあります。

また、成長に関する大きな要素である、「仕事の質」については大企業の方が高いケースも多いと思います。

例えば、海外拠点での事業投資のプロジェクトといった仕事や、大企業の役員向けに複数の部署やパートナーを取りまとめてプレゼンをする、といった「会社の看板」や「規模」が必要なハイレベルな仕事は、そもそも大企業に属していないと巡ってこない仕事です。

会社の看板に依存しないことが美徳として言われることがありますが、看板を使わなければ出会えない高度な仕事、成長の機会があることは間違いありません。

加えて、大企業の多くが仕事のためのインフラが整っています。

これは、仕事に必要な単調な作業を効率化出来ることに繋がります。

例えば、ITシステムや社内設備が整っていないと、単純な書類まとめを自分でやらないと行けなかったり、情報整理をするのにも自動化されておらず手作業が必要だったり、誰にでも出来る単調な仕事に多くの時間が割かれるというリスクがあります。

大企業の基盤やインフラの元、従業員がより質の高い仕事に集中出来る環境は大企業ならではの待遇です。

このように、大企業勤務が必ずしも「安定」では無いことは、全体の傾向としては誤っているし、中小やベンチャーが「成長できる」環境であることも一概には言えないということなのです。

と、ここまではまるで大企業信者のような記事となってしまいましたが、決してそんなことはありません(笑 私も大企業を飛び出してリスクの高い所に身を移した方ですので。

要は、大企業とか中小企業、ベンチャーといった規模の大きさで安定性や成長性を語るのは間違いだということです。

会社の安定性やそこでの成長速度というのは、その会社が何をやっていて、どんな人が働いていて、どこに向かおうとしているのか、といった様々な要素が関わって来ます。

会社の規模のみで、働く場所の環境を判断することにはリスクがあるということなのです。