FOAF事件ファイルNo01【ベッドの下の男】第四章『現場』 | 隼と兎

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天堂の電話からしばらくして、俺たちは新たな事件現場の前にいた。

と言ってもルナは相変わら近くに停めた車の中で留守番させている。

天堂からの電話の後、瑠花さんと美恵子さんにこの事件のことを話すか迷ったが、俺が言わなくてもいつかはニュースで知ることになる。

それならば早いほうがいいだろうと思い、俺は話した。

それを聞いて二人は怯えた様子だったので、今日は大学に行かず俺の事務所に来るかと聞いてみたが、大学には行っておきたいらしいので、終わってから連絡するということで、ひとまずは二人と別れた。

確かに事務所で縮こまるよりは、大学に行って友達と話しているほうが、少しはこの事件のことを忘れることができるかもしれない。

これまでのどの事件も夜中に部屋で襲われているので、さすがに昼間に大学で襲われることはない……おそらく。

完全に安心というわけではないが、大学についていくよりもこの事件現場から何かを得て、事件を早く解決することがより彼女たちのためになるはずだ。

そう思い事件現場となったアパートを見る。

マンションの周りは野次馬が集まり人だかりが出来ていた。

「また殺人ですって」

「同じ犯人かしらねぇ」

近所の主婦たちが、怯えたような、困ったような、なんともいえない表情で話し合っている。

その他にも携帯で写真を撮る学生、通勤途中と思われるスーツ姿の人など、様々な人が興味半分恐怖半分といった様子で事件の起こったマンションの周りに集まっていた。

事件のせいで人通りの少なかったこの町のどこからこんなに人が集まってくるのだろう。

怖い怖いと思いながらも、いざ事件が起こってみると見に来ずにはいられない。

人間の興味心とは不思議なものだ。

まぁ俺もそうなのだろうが、今回は興味心どうこうではなく事件として知る必要がある。

何か手がかりを探さなければ…

しかし、この状況をどうするか…

そう思いながら野次馬に囲まれたマンションの入り口を見る。

入り口からは警察官がせわしなく出入りを繰り返している。

ここに潜り込むのは少々骨が折れるぞ…

マンションの住人のふりをしてマンションの中に入れたとしても事件が起こった部屋までは入れないだろうし…

ひとまず話を聞いてみるか。

「すみません」

野次馬たちのようななんともいえないような表情をつくりながら、俺は野次馬の対応に追われている若い警察官に話しかけた。

「はい、なんですか?」

「あのーやっぱり殺人事件なんですかね?」

警察官は少し黙った後答えた。

「はい…そうです」

「どの部屋の人なんですか?」

「301と聞いてます。自分は下っ端なので詳しくは…」

「…」

「部屋の中はそうとう酷いみたいです」

「そうなんですか……やっぱり…前の事件と同じか」

「え?なにか?」

「い、いや、なんでもないです。どうやって発見されたんですか?」

「自分はよく知らされてないので詳しくは…聞いた話だと被害者の友達が迎えに来たときに鍵が開いていて発見したらしいです」

「なるほど…わざわざありがとうございました」

そう警察官にお礼を言ったところで、警察官の後ろの方から怒鳴り声が聞こえてきた。

「なにやってんだ!野次馬にベラベラと事件のことを話すんじゃない!」

若い警察官がビクッと震え振り返る。

この声は…まさか……

「い、いえ、自分は何も。事件のこともほとんど知らされてませんし…」

「だからといって知ってることベラベラ話していいってこたぁねぇだろうが!」

「は、はい!すみません!」

「これだから所轄は…聞いてきたやつが犯人かも知れんぞ?」

そう言いながらこちらを伺ってきた厳つい男に俺は見覚えがあった。

「お、おまえは!」

「お、お久しぶりです。美濃部さん」

「まぁたお前か!俺の来るとこ来るとこ湧き出やがって」

「そんな、人を蛆虫みたいに言わないでくださいよ」

この俺にいきなり怒声を浴びせてきた男。

警視庁捜査一課課長、美濃部剛一郎。

いわゆるノンキャリアの叩きあげというやつで、その名前や厳つい風貌の通り、恐ろしく頑固者である。

俺は過去、事件を追う仮定で何度となくこの男に遭遇し、目を付けられ、しまいには拘留されたこともある。

つまりは俺の天敵ともいえる男だ。

「まだこりとらんのか!?それともまた拘留されたいのか!?」

「そ、そんなわけないじゃないですか」

「…お前…この事件に関わってるんじゃないだろうな?」

「いやいやいや、そんなまさか!」

「じゃあなぜ事件のあるところあるところにお前がいるんだ!」

「そ、それは事件マニアだってことで落ち着いたじゃないですか」

「俺はそんなもんで誤魔化されんぞ!さっさと帰らんか!」

「そんなー、少し事件に関して教えてくれるだけでいいんですけど」

「ふざけるな!いつか化けの皮をはいでやる!ともかく、ただの野次馬でさえ話すわけにいかんことをお前などに話せるか!帰れ!」

こうなってしまってはやむおえない。

とりあえずは退散するとするか。

「わかりましたわかりました。帰るから怒鳴らないでください。課長の美濃部さんが来たってことは、美濃部さんがこの事件の捜査本部の本部長ってことですよね?ならこの事件はすぐに解決しそうだ」

「うるさい!お世辞などいらん!」

「は、はいはい、帰ります」

たいした収穫もなく車に戻った俺にルナが話しかけてくる。

「どうだった?」

「美濃部のおっさんがいた」

「収穫無し…か」

「しょうがない…」

携帯電話を取り出す。

「天堂?」

「ああ」

「私アイツ嫌い」

「俺も好きじゃないが、仕方ないだろ」

そういいながら天堂の番号に電話をかける。

「どうもー!」

天堂はすぐにでた。

相変わらず軽い感じの声が聞こえてくる。

「電話かけてきたってことはやっぱりダメだったみたいっすね」

「まぁそういうことだな」

「写真送ればいいんですか?」

「ああ、頼む」

「えーそれが人に物を頼む態度ですかぁ?」

「…わかった。悪かった。送ってくれないか?」

「ははは、じょーだんですってば!俺とファルコさんの仲じゃないっすかー!と言うかもう送ってまーす!パソコンで確認してください」

「そうか、ありがとう」

パソコンを開き送られてきた写真を確認する。

さっき行ったばかりのマンションの概観、例の部屋の前の廊下、そして部屋の中の惨劇の様子が隅々まで写されていた。

横から覗き込んだルナも嫌な表情をする。

「前の事件と同じだ…ひどいな」

「そうっすかね?もっとひどいのも見てきたじゃないですか」

「そういう問題じゃない」

「ふーん。ところでいつも思ってたんすけど、なんでファルコさんはいちいち現場見にいくんですか?写真ならいつも渡してるじゃないですか」

「どうやって撮ってきてるか毎回不思議だけどな…」

「それは企業秘密ってことで!で?なんでなんですか?」

「…写真だけじゃわからないこともあるだろ。些細な証拠とかな」

「いやー、そこらへんも隅々まで撮ってると思うんすけどねぇ」

「現場に犯人がいるかもしれないしな。自分が起こした事件の現場を見に戻ってくる犯人は多い」

「そりゃそうですけど、なんなら野次馬の写真も用意できますし」

「だからどこからそんなもん…」

「企業秘密ですってー」

「はぁ、まぁそれを抜きにしても現場に行く意味が俺にはあるんだよ。写真だけで見ていては見えてこないものもある。証拠がどうこうってことだけじゃなくな。そうしないと事件を解決することがただの作業になってしまう気がする。人が死んだりすることが普通のことに感じるようになったら終わりだ」

「そんなもんっすかねぇ?いつまでたっても慣れないときつくないっすか?」

「そりゃそうだけどな」

確かに慣れは必要だ。

こんな写真を見て毎回吐いてたんじゃ仕事は出来ない。

昔と比べるとそういう耐性はかなり付いた。

だからといってこういうことが当たり前だと思いたくはない。

だから自分の目で現場を確認したい。

「誰か」が殺されたんじゃなく名前も生活もある一人の人間が殺されたんだと感じたい。

感じなければならない。

ただ事件を解決したいからこんな仕事をやっているわけじゃない。

その事件で被害にあっている人を救いたいからこそ俺はこの仕事をやっている。

「ふーん。俺はそんな面倒なことやりたくないですけど」

「お前は別にそれでもいい。俺はそんなお前みたいになりたくないってことだ」

「ほえー相変わらずきついですねぇ」

「とりあえず写真のことは礼を言っておく。また何かあったら連絡頼む」

「了解です。まっちゃっちゃと解決してくださいよ!お偉方もそう望んでるでしょうし。ではではー」

ツーツー

「やなやつ」

そう言いながらルナがしかめっ面をしている。

「聞こえたか?」

「ばっちり」

ルナの帽子が少し動く。

「だけどあいつの情報はありがたい」

「それがまたムカつく」

「まぁ気にするな」

さて、ひとまずはこの写真を見てみるか。

そう思いながら改めてパソコンの画面に表示されている写真を見る。

写真のデータにはそれぞれ丁寧に「ベッド・血痕1」などの説明書きがされてあった。

まずは部屋全体の写真を見てみる。

被害者や部屋が変わった以外は前の二件とほとんど変わらない。

そこら中に血が飛び散っているひどい有様だ。

次に被害者の写真を見てみる。

「被害者・時田真由・20歳」と説明が書かれている。

その他にも「抵抗した形跡なし」などの説明書きもされていた。

前の二件も抵抗した後は無かった。

恐らく寝た後に襲われたのだろう。

もしかすると薬物などで自由を奪われた可能性も考えられるが、前の二件では薬物を使われた形跡は無かった。

まだ科捜研の検査結果は出ていないとはいえ、恐らく今回も使われていないだろう。

もし何かあれば天堂が連絡してくるはずだ。

昨日の美恵子さんの部屋で起こったことを考えると、この部屋でもベッドの下に隠れていたのだろうか…

しかし…

鑑識の調べでは前の二件は遺留品を残していない。

そして今回の写真にも「遺留品・指紋等無し」の説明書き。

昨日俺たちが見た煙の男。

アイツはそんなに計画的だっただろうか。

あっさり見つかり、悲鳴を上げられ、何もすることなく逃げていった。

いや、煙だから髪や指紋は残らずそれらも煙になってしまうのか?

服さえも煙になっていったことを考えるとそう考えられなくも無い。

だが、煙になれるのにあんなに簡単に見つかるだろうか?

殺人が起こった三件は誰も気が付かなかったことを考えると声も出さずに殺されている。

今回の発見は早かったが、それはたまたま迎えが来たからであって、他の二件は殺されてから発見されるまで時間がかかっている。

それほど誰にも気づかれず殺している犯人が昨日のようなミスをするのか?

たまたまか、それとも…

まだ結論を出すのは早すぎる。

煙の男の正体がなんなのかの情報もほしい。

…………じいさんに連絡してみるか。

じいさんなら捕まえる方法も知っているかもしれない。

そう思った俺は電話を手にして「鳳光寺」の番号に電話をかけた。